闇よ、我が手を取りたまえ


パトリック・ケンジー、アンジェロ・ジェナーロの男女の私立探偵の活躍を描いたシリーズの二作目「闇よ、我が手を取りたまえ」です。作者はデニス・レヘイン。このコーナー(とりあえずハードボイルド)の第一回目が同シリーズの「スコッチに涙を託して」だっただけにこの作者には因縁を感じるのだが、二作目がこんなに面白くなって感激だ。前作では造形したキャラクターで読ませている感があったが、この作品ではストーリーの展開で読ませている。

息子の命が何者かに狙われているという女性精神科医の依頼をうけたパトリックとアンジー。最初はアイリッシュ・マフィアとのトラブルが原因と思われたが、事件は意外にも二十年前にこの街で発生した殺人事件とつながっていた。そして連続して起こる無惨な殺人事件、その被害者を結ぶ線がおぼろげながら分かってきたとき、パトリックとアンジーが犯人の暴力にさらされることとなった・・・。

いずれにせよ、この作品のテーマは(などと難しいことを考えながら本を読むわけではないが)、人間の心にひそむ暴力である。それはこの事件の犯人やマフィアだけでなく、パトリックとアンジーにも言えることだ。かつて犯人を射殺したことがあるアンジーも次のように語る。

「引き金を引いたときに感じたことを感じてなかったふりを、何年もしようとしたわ。でも、無理だった」
「なにを感じたんだ?」
アンジーは椅子から身を乗りだし、足をベッドの端につけて膝を抱えた。「神様になった気分だった。自分がえらくなった気がしたのよ、パトリック」

そして、パトリックの父親は社会的な名士という外の顔をもちながら、一方家庭ではパトリックを虐待した男なのだが、二十年前の事件の背景を調べるうち更なる暗部につきあたる。そして自分にも同じ血が流れていることに思いいたるパトリックなのだが・・・。

と、そんな意味ではなかなかに重い作品でもある。しかし、デニス・レヘインのよいところはそんなストーリーでも独特のユーモアとタッチを貫く点にある。自分たちの警護についた若い警官を気に入ったアンジーはいう。

「あの子はとても純真で、まっすぐだわ」
「きみには若すぎる」
「どんな若者も、堕落させてくれる女が必要なのよ」

こんな調子で、パトリックとアンジーの会話は読者を楽しませてくれる。そう、堕落させてくれる女ねえ、若者でなくたってちょっと惹かれますよね。


書名 闇よ、我が手を取りたまえ
作者 デニス・レヘイン
翻訳 鎌田三平
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-279102-6