静寂の叫び


文句なくお薦めの一冊。

刑務所を脱獄した三人の凶悪犯が、聾学校の生徒と教師の乗せたバスを乗っ取り、廃屋となっている工場跡にたてこもる。アーサー・ポター率いるFBIの危機管理チームが対応にあたるのだが、身代わりの人質になることを申し出る州の法務次官や突入作戦を実行しようとする州警察の人質救出部隊などの存在が事態を混迷へ導く。しかし、ポターの懸命の交渉と人質となっている教師メラニーの活躍もあって、ひとり、ふたりと人質は解放され、事件は解決にむかっていくかにみえたが・・・。

いままでにも人質解放の交渉に当たる人物を主人公にすえた物語はいつくかある。この本のあとがきにもあるようにフレデリック・フォーサイスの「ネゴシエーター」もあるし、小生の記憶が確かならディック・フランシスのシリーズにも題名は忘れたが同様の作品があった。いずれも特殊な状況下でのスリリングな展開が面白いミステリーだった。しかし、この作品ほど、犯人と交渉人の一言一言を丹念におった作品は類がない。たった一言の間違いによって人質が殺されてしまうかもしれない、そんな緊迫感が全編を覆っている。そして事件は解決したと思わせたあとに待っているどんでん返しと新事実、と最後まで息をつかせない展開だ。

「アーサー」バッドが言った。「やつの母親を連れてきたらどうでしょう。ハンディの。あるいは父親でも兄弟でも」
ラボウはやれやれと言わんばかりに首を振った。
「なんでしょう。わたしがなにかおかしなことを言いましたか?」
情報担当官は言った。「映画の見すぎだ、警部。牧師だの家族だのなんてのは、およそ役に立ちやしない」
「どうしてです」
ポターが答えた。「そもそも、やつらが犯罪を犯した原因のひとつは、十中八、九、その家族ってやつなんだ。牧師にしても、犯人の機嫌を損ねるだけだ」

これは州警察の警部とFBI危機管理チームとの会話だが、この例にみるように随所にプロらしい知識と経験に裏打ちされた洞察があって、思わず感心してしまう。つい先日、日本で発生したバスのハイジャック事件を思い出してしまいましたね。
州の法務次官はポターの許可も得ず、犯人たちの銃口にその姿をさらしながら身代わりの人質になることを申し出る。が、その作戦が失敗すると、州警察の警部を利用し、ポターを責任者の地位から引きづりおろすことを画策する。結局、州警察の警部はそのことをポターに告白するのだが、状況を察知していたポターはこたえる。

ポターは意気消沈している警部に向かってうなずいた。「そんなことだろうと思っていた。自分を平気で犠牲にする人間は、他人を犠牲にするのも平気なんだ」

昨年の各雑誌のミステリーランクで上位に名前を出した「ボーン・コレクター」の作者ジェフリー・ディーヴァーの傑作「静寂の叫び」でした。


書名 静寂の叫び
作者 ジェフリー・ディーヴァー
翻訳 飛田野裕子
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-079555-X
4-15-079556-8