獣たちの庭園


あのジェフリー・ディーヴァーが初の歴史ミステリに挑戦した『獣たちの庭園』です。時は1936年、ヒトラーが支配したドイツで、オリンピック開催をひかえたベルリンが舞台。このオリンピックで四つの金メダルをとったジェシー・オーエンスを登場させるなどのサービス精神を発揮しているが、普段のリンカーン・ライム・シリーズとはかなり趣が異なっている。ミステリとしてはまあ平均点です。いつものディーヴァー節を期待すると裏切られる結果となる。

ボクシング・ジムのオーナーという表の顔を持ちながら、マフィアの殺し屋であるポール・シューマンは罠にかけられ拘束される。解放の交換条件は、ナチス高官の暗殺。仕事を引き受けたシューマンはオリンピック選手団とともにベルリンに渡る。現地工作員と接触を図るが、手違いから殺人をおかし、ドイツ警察に追われることになる。シューマンは警察の追跡をかわしながら標的に近づくが、この任務にもう一つの裏があることに・・・。

ポール・シューマンを追うドイツ刑事警察の警視はヴィリ・コール。彼とシューマンの追いつ追われつの展開が一つの見所となっている。しかし、リンカーン・ライムと犯人のそれと比較するとテンポはかなりゆったりだ。それというのも、この『獣たちの庭園』
ではナチズムに支配された社会のいびつさ、窮屈さをシューマンとコールの目を通して描くことにディーヴァーは腐心しているからだ。ひたすらエンターテイメント性を追求してきたディーヴァーが方向転換した作品と言えるでしょう。でも、その分面白くなくなっているのだけれど・・・。

おなじみヒトラーが登場する物語だけに、辛辣なヒトラー・ジョークでも出てくるかと思いきや、意外におとなしい話しか出てこない。

「信頼できる小市民。こんな笑い話を知っているかい? バイエルンの町で風見を役人と取り換えた。なぜか。役人は風向きをいちばんよく知ってるからってね。はっ!」

訳者後書きによれば、リンカーン・ライム・シリーズの次回作もすでに本国では上梓されているらしい。やはりディーヴァーはリンカーン・ライム・シリーズですね。

(2005.10.09)


書名 獣たちの庭園
作者 ジェフリー・ディーヴァー
翻訳 土屋晃
出版社 文藝春秋
ISBNコード 4-16-770509-5

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