死刑劇場


ロバート・ハイルブランの『死刑劇場』。原題は"Offer of Proof"で、後書きにもあるように「証拠の提示」とった意味でしょう。原題が示しているように、なかなかしっかりしたリーガル・サスペンスなのだが、邦題の『死刑劇場』はちょっとあざとい感じがしますね。心あるリーガル・サスペンスのファンはかえって手に取りにくいでしょう。

マンハッタンで一人の白人女性が銃殺された。現場近くで黒人青年デイモン・タッカーが逮捕され、公選弁護人アーチ・ゴールトが弁護を担当することになる。よくある行きずりの犯行として片付けようとする検察側にたいして、無実を主張するデイモンを信じたアーチは被害者の身辺調査を開始する。そして、被害者にかかりつけの精神分析医がいたことを知り面会をする。その直後、精神科医が強盗に殺害されてしまうのだが・・・。

一旦、死刑判決がでたあと、何としてもデイモンの無実を証明したいアーチは思い切った方法にでる。法廷ミステリが一転して、こうしたパターンとなるミステリは他にもあるので、ここらの処理の仕方にはもう一工夫あったほうが良かっただろう。もう少しスリリングな展開が欲しいところだ。

主人公アーチは、決して豊かではない家庭に育ち、公選弁護人という儲からない職業を天職としている。派手さはないが、好感の持てる主人公だ。アーチの父親はノミ屋をしながら、彼を大学まで進学させてくれるのだが、その父親が語る次の言葉はそのまま、本書のテーマとなっている。

「この世にはふたつの世界があるんだ、アーチ。まっとうな世界と、おまえの生まれたそうじゃない世界とが。おまえはいま、まっとうな世界に足を踏み入れようとしている。けど、おまえの目指すまっとうな世界でも、正しいことをするためにはルールを破らなきゃならない場合があるってことを忘れるんじゃないぞ」

とここで、まったく本書の筋とは関係ないが、アーチの別れた妻について言及されている場面がある。彼と同じく法律家なのだ。

その後、彼女は別の事務所に移ってパートナーに昇格し、大企業を合併させては分裂させ、それをまた合併させて年に五十万ドル以上稼いでいるが、いまだ独身をつづけている。

大企業を合併させては分裂させ、それを合併させて儲けていると聞くと、つい先頃のライブドアの騒動を思い出す。どこかで儲けを仕組んでいるの奴がいるのでしょうね。

(2005.05.01)


書名 死刑劇場
作者 ロバート・ハイルブラン
翻訳 奥村章子
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-175301-X

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