あの『ダ・ヴィンチ・コード』で一躍有名になったダン・ブラウンの新作、『デセプション・ポイント』です。もっとも、新作と言っても、実際は『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』の間に書かれたもので、お馴染みのロバート・ラングトン教授は登場しないノン・シリーズの作品だ。かつて人類を月におくったNASAも近頃では、旗色が悪いらしい。その予算にも厳しい目を向けられているようだが、そんな状況を背景として、著者がダン・ブラウンと知らずに読むとマイケル・クライトンの作品と勘違いしてしまいそうな物語が展開する。
国家偵察局(NRO)の局員であるレイチェル・セクストンは、ある日大統領から緊急の呼び出しをうける。北極へ飛び、そこでNASAの重大な発見に立ち会うことを命じられる。しかし、現在大統領選のまっただ中にあり、大統領の対立候補は誰あろう、レイチェルの父親セジウィック・セクストン上院議員なのだ。しかも、セクストン上院議員はNASAの巨額の予算と数々の失敗を追求しているのだった。レイチェルを北極に向かわせた大統領の思惑はいったい何か、といぶかるレイチェルを待っていたの地球外生命の存在を証明している隕石だった・・・。
確かに巧い。特に、隕石の真相をつかみながら、暗殺者たちの魔手をくぐりぬけ、背後の陰謀にいかにせまるか。後半はほんとうに息をもつかせぬ展開で、さすがにダン・ブラウンらしい面白さだ。実に意外な黒幕が明かされるのだが、読者をミスリードする伏線も達者なものだ。
充分、その値打ちはある。ただし、ラングトン・シリーズとどちらに軍配をあげるかと問われれば、文句なくラングトン・シリーズの知的興奮のほうが勝っている。地球外生命の存在と大統領選をめぐる陰謀という物語は、それはそれで面白いのだが、ダ・ヴィンチやガリレオを背景とした歴史ミステリと比べるといささか軽い。『ダ・ヴィンチ・コード』のように幅広いファンをつかめるかというと、ちょっと疑問だ。やはりラングトン教授シリーズの三作目が待ち遠しい。
今回、本編から紹介するのは「節減の法則」です。ミステリでは引き合いにだされることが多い考え方です。
”節減の法則”をふと思い出した。NROの上司たちに叩きこまれたその法則は、いまも脳裏に刻みこまれている。”いくつかの解釈が存在する場合、いちばん単純なものがたいてい正しい”。
(2005.04.17)
| 書名 | デセプション・ポイント |
| 作者 | ダン・ブラウン |
| 翻訳 | 越前敏弥 |
| 出版社 | 角川書店 |
| ISBNコード | 4-04-791493-2 4-04-791494-0 |