私立探偵アレックス・マクナイトのデビューである。街の賭や屋がたてつづけに二人殺される。そして犯行を臭わせる手紙がマクナイトのもとに届くが、その差出人は刑務所で服役しているはずのマクシミリアン・ローズという男だった。このローズこそ警官時代のマクナイトを銃撃した男であり、その時の銃弾のひとつはいまだにマクナイトの心臓のそばに残っている。そうこうするうちに、マクナイトの友人のエドウィン・フルトンが姿を消す。はたしてこれもローズの仕業なのか?
刑務所にいるはずの男が殺人を犯す、というのはサイコ・ミステリーでありがちな展開だが、スティーヴ・ハミルトンの「氷の闇を越えて」は少し毛色が変わっている。
「ミセス・フルトンはきみの名前を知っていた。いつもエドウィンから聞かされていたからだ。くわしいことを聞きたいということだったので、わたしは知っていることを全部教えた。元警察官で、撃たれた過去もあることも。(中略)新聞記事をみつけてくれと言われたので、さがして見せてやった。ミセス・フルトンは隅々まで読んで、きみがこの役にうってつけだと言った。恐怖のなんたるかを知っているから。何よりもその点が信用できる、それは自分自身の経験からわかるということだった。きみは永遠に恐怖から解放されない人間だと」
この言葉のとおり、マクナイトは過去の銃撃事件の恐怖から解放されていない。この恐怖といかに折り合いをつけながら、事件の真相にせまるかがお話の中心になっている。そのせいで、ハードボイルド小説に登場する探偵のように格好はよくないが、しっかりした存在感があるとも言える。
肝心の「刑務所にいるはずの男が殺人を犯す」というサイコ・ミステリー調の展開は、しごくまっとうな結末だが、多少理屈が先行し、面白みにかける。それと友人のエドウィン・フルトンの妻シルヴィアとの関係も思わせぶりで、最後まで消化不良のままなのは残念!
| 書名 | 氷の闇を越えて |
| 作者 | スティーヴ・ハミルトン |
| 翻訳 | 越前敏弥 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-171851-6 |