ウィスキー・サワーは殺しの香り


正宗という名前の青年が、菊さんという姓の家に養子に入ったら菊正宗さんになる。営業職なら一度で名前を覚えてもらえて便利だろうけれど、何かと言うと日本酒を飲まされて閉口するかもしれない。もっとも、一条ゆかりさんの漫画『有閑倶楽部』には、菊正宗、松竹梅、白鹿、剣菱といった姓の人物が登場してくるそうですが・・・。

こんな埒もない連想をするのも、J・A・コンラスの『ウィスキー・サワーは殺しの香り』というミステリのせいだ。女性主人公がジャクリーン、通称ジャックで、結婚して姓が変わりダニエルズ、つまりジャック・ダニエルズというふざけた(?)設定のシリーズなのだ。

セブンイレブンのゴミ箱から女性の惨殺死体が相次いで発見された。シカゴ市警のジャック・ダニエルズ警部補がこの連続猟奇殺人の捜査にあたることになった。しかし、犯人はジャック自身にも狙いを定め、魔手を伸ばしてきた・・・。

主人公の名前が有名なテネシー・ウイスキーと同じという、人を食った設定のくせに、実はかなり本格的なサイコ・ミステリとなっている。犯人の正体が割れる過程もしっかり書かれているし、犯人の直接の動機となる出来事もいかにもアメリカ的かつ今日的なものだ。

しかし、なんといっても本書の魅力は主人公を中心とするドタバタ、滑稽感でしょう。ジャック・ダニエルズ自身も、格闘したり、銃撃されたりとかなりタフなのだが、一方で46歳のバツイチながらデート・サービスを利用したりと元気だ。まわりもユニークな人物が多く、パートナーのハーブ・ベネディクト刑事やジャックに逮捕されたことのある麻薬の売人など、にぎやかな顔ぶれが活躍する。

ところで作者J・A・コンラスは男性だ。女性主人公の警察物となると、とかく男性社会のなかでの軋轢、苦悩といった側面が強調されがちだが、『ウィスキー・サワーは殺しの香り』は様子が異なる。例えば、相棒のハーブ・ベネディクト刑事は大食漢で、笑える人物なのだが、なかなか頼りになる側面もある。

「私はあなたとちがうの、ハーブ」
「なんでだい? 俺だってやつを捕まえたいのさ」
「でも、あなたには仕事以外の人生がある。私にはこれしかないの」
ハーブは袋を置いた。彼は何かに真剣になると、食べ物を手から放す。
「人の人生はみずから選んだもので出来ているんだ、ジャック。君だってみずからこれを選んだわけだろ」

男性作者らしく、さらりとしたタッチで、わたしのような男性にも読みやすい。

ただ、ウィスキー・サワーが題名になっているものの、ちょいと飲む場面があるだけで、タイトルとの関係が希薄である。二作目は『ブラディー・メアリー』だそうだが、願わくばブラディー・メアリーが作中でも重要な役割をはたしていてほしいものだ。

(2005.02.27)


書名 ウィスキー・サワーは殺しの香り
作者 J・A・コンラス
翻訳 木村博江
出版社 文藝春秋社
ISBNコード 4-16-766191-8

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