実に読みごたえのある一作だ。リーガル・サスペンスという形式ではあるものの、より深い人間ドラマとなっている。今日の話題はデイヴィッド・L・ロビンズの『焦熱の裁き』。著者のロビンズはもともと戦争物を得意とする人だが、その風貌とは似て似つかぬ−−本書の著者近影によれば、かなり無骨なイメージです−−繊細な心理描写は見事だ。
冒頭、若い夫婦の幸せな姿が描かれる。しかし、妻のクレアは白人、夫イライジャが黒人という二人を悲運と悪夢が襲う。二人の間に生まれた娘は無能症、生まれて10分で息を引き取る。教会の墓地に埋葬されるが、純血にこだわる白人の教会執事たちの意向で掘り起こされ、別の教会へ移送されてしまう。その夜、教会は猛火につつまれ焼け落ちてしまうが、現場にいたイライジャが放火の疑いで逮捕される。かつて、この町で検事補として働いたナット・ディーズが公選弁護人として弁護にあたることになったが、焼け跡から女性の焼死体が発見されたことから、事態は紛糾していく。
本書のなかで、教会放火事件が年間三百件、そのうち45%が黒人の教会と紹介されており、これがいつの時代の話なのか疑問に思いながら読んだのだが、どうやら1990年代以降のようだ。本書ではとんでもない悪人は登場しないが、それでも引き起こされる悲劇。それだけにこの問題の根の深さをうかがい知ることができる。
訳者あとがきにあるように、登場人物一人ひとりが丁寧に描かれており、それが物語に厚みと余韻をあたえている。ナットと別居中の妻メイヴの関係、クレアとイライジャの関係など実に巧みだ。
クレアとイライジャは、二人が障害を乗り越えて愛しあっていると人から思われるのが嫌いだった。違う人種の相手と結婚したからといって、二人が普通より善良な人間なわけではない。相手の肌の色が違うからといって、二人が寛容なわけではない。
こんな言葉もデイヴィッド・L・ロビンズの確かな人間洞察がなせる技でしょう。本書の帯によれば、映画化が決定しているようですが、むべなるかな。
(2005.02.20)
| 書名 | 焦熱の裁き |
| 作者 | デイヴィッド・L・ロビンズ |
| 翻訳 | 村上和久 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-221925-0 |