すでに三作目となるジェフ・アボットの判事ホイット・モーズリー・シリーズ。このシリーズのファンも多いと思うのだが、本書『逃げる悪女』を読むとかなり戸惑うのではなかろうか。黒い法服のしたにパイナップル柄のシャツを着ていたりと、お気楽ぶりは相変わらずと言いたいのだが、今回は母親探しという重たいテーマのうえに、かなり荒っぽい展開となる。
ホイットが小さいころ、夫と子供をすてて駆け落ちした母親なのだが、それがいまではマフィアの金庫番。しかも、そのマフィアが抗争にかきこまれ母親も命を狙われる始末。父親の余命がいくばくも無いことを知ったホイットがその母親を探して、争いに巻き込まれる。
裏切りと裏切りが錯綜するプロット、誰が本当のことを語っているのか判らない。ひょっとして作者も正確には追いきれていないのではないかと思うけれど、あまり細かなことを気にかけてるべきではないのだろう。二組みのマフィア、第三のグループの存在、警察の追及、そして意外な影の人物と、これはこれなりに面白い。しかし、である。ファンがこのシリーズに期待しているのは、まったく別のもので、本書には失望するだろう。
ホイット自身の魅力が描かれていないばかりか、魅力的な脇役として登場していた父親とその後妻の扱いが第一作と違うし、その父親を殺してしまって今後どうするつもりだろう。かつて浮気相手にしたい男性ナンバー・ワンと言われた(第二作『海賊岬の死体』のあとがきより)ホイット・モーズリーだが、その名誉ある地位はチョイとゆらいでいる。まぁ、本書『逃げる悪女』はホイットの母親が主人公のシリーズ番外編と思うしかないだろう。
ジェフ・アボットは、より重厚でハードな作品を書きたいという欲求に抗し切れなかったのだろうか。もう一度、『さよならの接吻』を読み返して、ホイットが<お尻ふりふり>というアイスクリーム店の経営していたことなど、思い返して欲しいものだ。
さて、本書のギャングになかにチャド・チャニングの自己啓発セミナーのテープを聴いている風変わりな男が登場するのだが、面白い会話が登場する。
「感謝すれば心が軽くなるぞ」
「それもチャド・チャニングの受け売りか?」
「いいや、シスター・メアリ・クラレンスだ」
無論、シスター・メアリ・クラレンスとは映画『天使にラブソングを』でウーピー・コールドバーグが演じていた尼僧役ですね。このセリフに覚えはないけれど、「感謝すれば心は軽くなる」とは当たっているかもしれない。
(2005.01.23)
| 書名 | 逃げる悪女 |
| 作者 | ジェフ・アボット |
| 翻訳 | 吉澤康子 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-174553-X |