女神の天秤


フィリップ・マーゴリンはとにかく面白い。裏表紙でマーゴリンのことを「十割打者」の異名を持つと紹介しているけれど、まったくの同感。日本での知名度は低いのが残念ですが。そのフィリップ・マーゴリンの新作『女神の天秤』はお薦めです。

ダニエル・エイムズは大手法律事務所<リード、ブリッグス>の若手弁護士。薬害問題で訴えられたゲラー製薬の弁護を担当していたが、重要な資料を見落としていたことから、裁判は窮地におちいる。その責任を取らされて、事務所を首になったダニエル。しかも、訴訟を担当する彼の上司が何者かに殺害されたことから、ダニエルは容疑者として追われることになるのだが・・・。

薬害訴訟における製薬会社の悪辣な陰謀と思えた事件が意外な展開をみせる。その意外性もさりながら、なんといっても、巧みなプロットが特徴でしょう。。例えば、プロローグはアーノルドという平凡なアリゾナの弁護士が、出張で出かけたニューヨークで偶然に入った画廊で、とある写真を見て驚愕する場面から始まる。これが一体薬害訴訟とどんな関係があるかは読んでのお楽しみでが、さすがにマーゴリンというべきです。

注文をつけるとすれば、事の真相がある人物の回想によって、ストレートに明かされる点に物足りなさが残る点でしょう。いつもの二転三転に比べれば、おとなしい展開ですね。

なお、ダニエルを助ける女性弁護士アマンダ・ジャフィはマーゴリンの『野生の正義』でも登場。ダニエルの「連続殺人で起訴された例の医者を代理した弁護士、あのアマンダ・ジャフィじゃないのかい?」というセリフはその『野生の正義』の事件を示している。あの事件では、まだ新米だったが本書では貫禄充分だ。未読の方はこちらもどうぞ。

さて、本書の中で交わされるある弁護士と刑事のセリフ。

「きょうのうちに会う必要があるんです」
「それでは、お役に立てないな」
「あるいは、立ちたくないのか」

どこかの窓口で軽くあしらわれた時に、皮肉の一つも言いたいときなど使えそうでしょ。

(2005.01.06)


書名 女神の天秤
作者 フィリップ・マーゴリン
翻訳 井坂清
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-274940-8

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