D・W・バッファの弁護アントネッリ・シリーズの第四作『遺産』です。とは言っても、わたし自身、第一弾『弁護』以来なので、主人公ジョーゼフ・アントネッリの人となりについては、かなりあやふやで自信がない。また、本編でもそこらについて深く説明がなされていないので、ちょっと戸惑いますね。
カリフォルニア州知事を狙う上院議員ジェレミー・フラートンがその選挙戦の最中に殺害された。その容疑者として逮捕された黒人医学生ジャマール・ワシントンの弁護を引き受けたのがアントネッリだった。状況証拠のみで、ゆきずりの殺人として処理をしようとする検察に対し、アントネッリは反撃を試みるが、彼自身何者かの脅迫を受けることになる。こうして事件は政界を巻き込んだ陰謀へと発展していくのだが・・・。
ズバリ、中途半端。法廷物としても、大がかりな陰謀を描いたサスペンス物としても、そして人間ドラマとしても、これといった決め手に欠ける。一旦、判決が出されたあとに、物語は動き出して意外な真相が明かされるのだが、ストーリーの途中で発生した謎にきちんと解答を出していないので、何となくすっきりしない。また、大がかりな陰謀を臭わせておきながら、そのスケール感がどこかへ行ってしまっている。第一作『弁護』は面白かっただけに残念だ。
さて、物語に元KGBで、今は輸入業者をしているロシア人が登場する。なかなか重要な役回りなのだが、そのロシア人が、アメリカの資本主義がソ連の社会主義に勝利したと主張する実業家にこんなことを言う。
「しかし、あなたたちは勝利によってなにを得たんです? 五十年間、なにか大きなことにかかわっている、と両陣営とも思っていたんです。両者の競い合いがやることなすことに修練を強いた、どちらの人間にとっても。もちろんこれはわたしの私見にすぎませんが、両方の国に住んでみて思うんです、どちらもーーアメリカもソ連もーーおたがい相手を必要としていたようなところがあるのではないか、と。ある意味では、両者は鏡に映した像ではなかったのか、と。片方が壊れれば、もう一方も必然的に壊れるんです。ええ、そうですよ、ミスター・サンダーズ、冷戦は終わりました・・・しかし、それがつづいているあいだは、われわれはみんななにか大事なことを、自分自身より大切なことをなしとげようと必死だった。いまはなにがあります? わたしは根っからの皮肉屋ではありませんよ、ミスター・サンダーズ、しかし、こう言いたいですね、われわれマルキストが常に魂の存在を否定していたのに対し、あなたがたアメリカ人は持っていた魂をいつ失ったのかに気づいていないように見えます」
昨今のアメリカを見ているとあながち的はずれでもないように思えますね。
(2004.11.21)
| 書名 | 遺産 |
| 作者 | D・W・バッファ |
| 翻訳 | 二宮磬 |
| 出版社 | 文藝春秋社 |
| ISBNコード | 4-16-766176-4 |