「ずいぶん大きくなったな」。脅迫者が思わず口走ったこの言葉がヒントだった。ローリングストーン誌の表紙をかざるまでにメジャーになったロックバンド《テイルフック》のメンバー、ミム・ブラッカ。しかし、アルコール中毒が原因でバンドから一時帰休を言い渡され、故郷へ戻った彼女を危難が襲う。拉致監禁されたかと思うと、いかがわしい写真がwebに公開され、兄マイケルが何者かに殺害される。そして正体不明の脅迫者が百万ドルを要求してくる。自らと父親を守るために、ミムはわすがな手がかりを頼りに脅迫者の正体に迫ろうとするのだが・・・。
グレッグ・ルッカはボディー・ガード、アティカス・ゴディアックのシリーズでおなじみの作家だが、今回はそのシリーズを離れて単発の作品だ。なにしろ、アティカス・ゴディアックの方はボディー・ガードの仕事が三作品の間(実際は四作目があるのだが本邦未訳)にエスカレート。最新作『暗殺者』では、あのSAS(英国の特殊空挺部隊)のはぐれ一派とことを構えるまでになり、一介のボディー・ガードの範疇をこえて制御が難しくなってきたので、それもあったのでしょう。
ミム・ブラッカが意を決して、脅迫者の正体を探そうとし、自らが若い人に人気のあるミュージシャンである点を利用して脅迫者と対決する後半100頁は読み応えがある。それだけに、そこに行き着くまでが問題だ。
作中の一人称は「わたし」ではなく、「あたし」なのだ。不幸な少女期、ロックバンドのメンバーという設定から、そうなるのだろう。でも、26歳の女ですからね。ちょっと違和感があるなぁ。ホフマンという重要な役回りを演じる女性刑事が登場するのだが、ミムに対してこんなことを言う。
ホフマンは椅子を後ろにずらして立ち上がり、かけてあったコートを取った。「違うわね。あなたがどうしようもないのは、かなり露骨にみじめにしてるから。ロックープリンセスなんてまだ甘いわね」
「あたしにはみじめになる理由があるじゃない」
「そうね。だけど、自分でもそれが好きだからじゃないの」ホフマンはコートを着て、具合を直した。
なかなか的確な指摘で、こんなに大人になりきれない、アル中の26歳の小娘につきあうのはオジサンにはちょっとつらいものがありました。そうしたことが気にならない方にはお薦めです。そうそう、最後にミムの再生を予感させる展開になるのだが、それほど簡単にはいくまいとオジサンは思ってしまうのでした。
(2004.10.24)
| 書名 | わが手に雨を |
| 作者 | グレッグ・ルッカ |
| 翻訳 | 佐々田雅子 |
| 出版社 | 文藝春秋社 |
| ISBNコード | 4-16-323360-1 |