さて、今週はベティ・ウェブの『砂漠の風に吹かれて』を紹介します。女性私立探偵リナ・ジョーンズを主人公とするシリーズ一作目で、米国ではすでに長編、短編集あわせて四冊が出版されている。この種のミステリでは、どうしても主人公の個性で読ませることになるし、リナ・ジョーンズについても作者はかなりの工夫をしている。また、舞台はアリゾナ州スコッツデール。作中でも、地震から逃れてきたカリフォルニア人と、犯罪から逃れてきたニューヨーカーと、雪から逃れてきたシカゴ人たちに浸食されつつある、と表現されているように急速に人口が伸びている観光地だ。
アリゾナ州スコッツデールで探偵家業を営むリナ・ジョーンズ。彼女の数少ない友人で、画廊を経営するクラリス・コウビーが惨殺される。別居中の夫が容疑者として逮捕されるが、証拠不充分で釈放される。クラリスのために真犯人を探すリナだったが、彼女が捜査に乗り出したとたん、何者かに銃撃される。やがて、クラリスとその一家の本当の姿が浮かび上がってくるのだった・・・。
物語の展開はきわめて単純だが、虚構の中の富豪一家、家庭内暴力、環境破壊と言った今日的な問題を取り込んでいる。しかし、物語の縦糸はなんといってもリナ自身のルーツを探すストーリーだ。彼女は四歳のときに母親とおぼしき女に銃撃され、いまでも右の眉の上に六センチの傷跡が残る。偶然、銃撃のシーンに出くわしたヒスパニック系の女性に救われ、病院に運ばれるが、その後はいろいろな里親の家をを転々とする人生だった。そのリナが、自らの出自を探すという筋書きが重要な位置づけになっている。本編でも、その一部が明らかになるが、次回作以降でもその謎解きが続きそうだ。ただし、わたしのような男性からみると、女私立探偵物はやはり感情移入がしにくい点もあるのだが、女性読者はどうてあろうか?
さて、リナ・ジョーンズは小さいころから苦労してきたこともあって、なるほどと思わせる警句が登場する。例えば、こんな具合だ。
憎しみは愛よりもずっと口を軽くすることをわたしは経験から知っていた。
わたしはいつも馬たちに話を聞いてもらってきた。馬の広い背に乗ることは、精神分析医のソファに寝そべることとどこか似ている。
乗馬の経験はありませんが、さもありなんと思わせますね。
(2004.10.17)
| 書名 | 砂漠の風に吹かれて |
| 作者 | ベティ・ウェブ |
| 翻訳 | 上條ひろみ |
| 出版社 | 扶桑社 |
| ISBNコード | 4-594-04804-8 |