銀行預金の残高は65ドル。仕事はステーキハウスのウェイトレス。スタイルもよく、なかなかの美人だが、バツイチだけあって、こんなセリフも平気だ。
「どうしてわたしのこと知りたいなんて思うわけ? ご丁寧に外堀を埋めるのはいいけど、結局寝たいだけならそういって。わたしだって子供じゃないんだから」
しかも、冒頭、行きずりで一夜をともにした男のアパートで目を覚またシーンから登場する。こんな、ヒロインらしからぬヒロインが登場するのは『天使の悪夢』。著者はマイケル・フレイズ。本編がデビュー作ということだが、巧みな手際を見せている。意外な掘り出し物といってよいでしょう。
職場でのトラブルの気晴らしに、当てもなく車を走らせて迷い込んだ果樹園で、ケイシー・ライトマンはとんでもない現場に出くわす。一人の女性が殺され、死体が埋められる場面を目撃してしまったのた。恐怖のあまり、声もあげられなかったケイシーだが、やがてニュースで、自分が目撃した女性がテネシー州社交界の著名人ドナ・スタントンで、行方不明として捜索されていることを知る。犯人の報復を恐れ、素直に警察に通報できないケイシーは一計を案じ、自らを超能力者と偽り、ドナが殺され埋葬されるシーンを夢で見たという話をテレビ局に持ち込む。大きなスクープになると感じたテレビ局の野心的レポーター、ブランディの協力もあって徐々に真相が明らかになるが、それを望まない犯人一味の魔手がケイシーに身に・・・。
テレビ局が超能力者を使って犯罪捜査をするといった、いかにもアメリカ的な展開でキワモノの印象もあるが、読者に何を明かし、何を伏せておくかというさじ加減が上手だ。例えば、犯罪組織の協力者に警察内部の人間がいることは読者に明かされる。そして、何人か登場する警察官それぞれに微妙な状況や表現があって、はたして誰が協力者なのか読者は疑問を持ちながら読むことになる。一方で、組織が殺害を決意することになるドナに知られた秘密が何なのかは、ずっと明かされない。こうした使い分けは新人とは思えない巧妙さだ。
終盤はケイシーと犯人との対決というお決まりのパターンだが、スピーディーな展開で読者をひきつける。あえて注文をつければ、事件の背後にいる犯罪組織のボスや政治家の動静が後半描かれないのが物足りない点だ。お約束の主人公の恋愛も織り込まれている。いささかページを割きすぎて冗長に感じるが、なかなか渋い結末が待っている。
(2004.10.03)
| 書名 | 天使の悪夢 |
| 作者 | マイケル・フレイズ |
| 翻訳 | 西田佳子 |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-274811-8 4-06-274812-6 |