「星影のステラ("Stella By Starlight")」というスタンダードの名曲がありますね。韻を踏んだ洒落たタイトルだけれど、ステラとはラテン語で星のことだから、意味も掛けているわけです。そして本書、リチャード・ノース・パタースンの『ダーク・レディ』の主人公はステラ・マーズ。彼女の飼っている猫の名前はスターとなる。ちなみに、ステラ・マーズは『サイレント・ゲーム』で敵役の検事補として登場しており、パタースンお得意の手法だ。
アメリカ中西部の都市スティールトンでは、現職市長と郡検事アーサー・ブライトが次の市長の座をめぐって激しく争っていた。その市長選のさなか、二人の人物が変死をする。一人は現職市長が推し進める球場建設プロジェクトのマネージャーで、麻薬の過剰摂取による事故に見えた。もう一人は、ブライトの支援者で弁護士のジャック・ノヴァク。しかもノヴァクはガーターベルトに黒いストッキングという異様な格好で首をつっていた。検事補ステラ・マーズは二つの事件の解明に当たるが、政治的に微妙な事件だった。彼女自身、選挙ではブライトを指示しており、彼の後任として検事の地位を狙うという野心を持っていた。しかも、ジャック・ノヴァクは彼女のかつての恋人でもあり、今の職があるのも彼のおかげだった。彼女の捜査により、事件の背景が見えてくるが、やがて彼女自身へも脅迫の手が・・・。
さすがにパタースンだ。彼にしては珍しく法廷シーンのない展開だが、文庫で700頁となる物語を難なく読ませる。と言っても、二つの変死事件につながりがあるのは読者には明々白々。むしろ、政治的な思惑のなかで、どのような決着をつけるのかが興味の中心となる。政治の世界では、穢れのない人間などいないと思わせるその結末は、『サイレント・ゲーム』以降すこし作風が暗くなったような印象を与える。
なお、かつて製鉄業ととも繁栄と凋落をたどり、再び這い上がろうとしているスティールトンという街、ポーランド系移民としてこの街の盛衰を味わったステラの一家、そして父親との確執(これはパタースンの小説の常道ですね)、そんな背景が丁寧に描かれている点も興味深い。
ステラと一緒に捜査に当たるマイケル・デル・コルソは妻に逃げられながら、そのことを幼い娘のソフィアにまだ話していないのだが、その点についてステラは言う。
「(前略)だから、ソフィアも、あくまて親同士の問題だと納得できれば、だぶん切り抜けられる。現実を否定するより、現実と向き合うほうが、害は少ないと思うの」
無論、ステラとマイケルはいい仲になるのだが、そこにも事件の影が忍び寄るのですよ。
(2004.09.20)
| 書名 | ダーク・レディ |
| 作者 | リチャード・ノース・パタースン |
| 翻訳 | 東江一紀 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-216015-9 4-10-216016-7 |