あとがきでもゲーリー・クーパーが引き合いに出されているが、まさにハリウッドの古き良き時代の西部劇を思い出させる作品だ。本書C.J.ボックスの『沈黙の森』の主人公は保安官ならぬ猟区管理官ジョー・ピケット。本国ではすでに四作目まで刊行されているシリーズの一作目にあたる。
普段は密猟者の取り締まりなどを行っている猟区管理官ジョー・ピケット。ある朝、彼は裏庭で男の死体を発見する。死体のかたわらには、クーラーボックスが落ちており、なにかの動物のものと思われる糞が残されていた。その男は密猟者として知られており、その仲間の所在を求めて、ジョーは保安官たちと森へ入る。そこで銃撃戦のすえ犯人と思われる男を逮捕する。しかし、事の成り行きに納得できないジョーは独自に捜査をすすめるが、過去の失態を咎められ突然解雇を言い渡される。そして、ついにはジョーの妻子にまで危険が及ぶに至った・・・。
読んでいくと比較的早い段階でそれとなく判るので書いてしまうが、絶滅危惧種の存在を持ち込んだ点が目新しいところだが、犯罪の動機は地域開発にからむ利権にあり、新鮮味には欠ける。ジョーの先輩でもあり、周囲の信頼を集める元猟区保安官ヴァーン・ダネガンの存在など、ストーリーも定石通りで、予想にたがわぬ展開だ。それだけに本書の成功は、ひとえに主人公ジョー・ピケットの人物造形に寄っている。州知事に違反切符をきるような愚直で寡黙な男が、自らと家族を守るために戦う。ワイオミング州という舞台設定もあいまって、まさに西部劇と言ってよいだろう。
そんなジョー・ピケットの性格を表している独白を紹介しておこう。
参加者が発言の数によって報われるかのようにふるまい、結果的に言葉が安っぽく無意味になってしまうような集まりを、ジョーは忌み嫌っていた。経験上、いちばん多くしゃべる人間は、言うべことをいちばん持たない人間だった。
全体の構成は上で述べたように西部劇のそれだが、今日的な問題を取り上げている点を忘れてはいけないだろう。絶滅危惧種に代表される環境問題がそれだ。そして特筆すべきは、教条的な環境保護論に対して批判的なメッセージが含まれている点だ。
絶滅危惧種(本書のケースは正確には絶滅したと考えられていた種)の存在が明らかにされた後に巻き起こる騒動がエピローグで紹介されるが、ジョーはそれを醒めた目でながめながら、娘シェリダンにこう語る。
「ほんとうは自分たちのためにやっているのに、動物たちのためにやっていると言う人間がいっぱいいるだろう。彼らは、動物の中に実際はないかもしれないものを見ている。ときには、それが結果的に動物を傷つけるし、ほかの人々も傷つけることになると思う」
環境問題についても考えさせられる一冊だ。
(2004.09.05)
| 書名 | 沈黙の森 |
| 作者 | C.J.ボックス |
| 翻訳 | 野口百合子 |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-274844-4 |