殺しの迷路


ヴァル・マクダーミドといえば、決して多作ではないけれど、どれをとっても水準以上のミステリを読ませてくれる、信頼のおける作家だ。本書『殺しの迷路』もさすがに水準以上なのだが、好きになれないなあ。後味が良くないのです。その理由は後程述べるとして、物語はこんなかんじだ。

ロンドン市警のキャロル・ジョーダンはユーロポール(欧州刑事警察機構)に転職しよと面接をうけ、合格する。しかし、その最初の仕事はキャロルの予想に反して、ドイツの犯罪組織への潜入捜査だった。犯罪組織の影のボス、タデウシュ・ラデツキの亡くなった愛人にキャロルが生き写しだったからだ。偽りの身分をつくり、万全の準備をして巧妙にラデツキに接近するキャロル。その頃、ヨーロッパの各地で心理学者を標的にした残虐な殺人事件が発生していた。すでに一線を退いていた元心理分析官トニー・ヒルは非公式な捜査協力のためにベルリンを訪れる。そして、ささいな出来事から二人の身が危険にさらされることになるのだが・・・。

キャロル・ジョーダンとトニー・ヒルのシリーズは本編で『殺しの儀式』、『殺しの四重奏』につづく三作目となる。シリーズ物は難しいなあ。この『殺しの迷路』ではサイコ・キラーとの戦いという以外に、新しい展開を持ち込んだのだが、一冊で二冊分の面白さとなれば良かったのだが、どうだろう? それぞれがちょっと希薄になった印象を受ける。

冒頭後味が悪いと書いた、その理由を述べましょう。結局キャロルの正体がばれて、手ひどい反撃にあう。その内容自体も感じの良いものではないが、正体がばれた原因が、キャロル・ジョーダンとトニー・ヒルのプロらしからぬ行動にあるのだ。二人の恋愛関係がその根底にあるのだが、ちょっといただけない。二人のより人間的な側面に焦点を当てたいという作者の意図かもしれないが、わたしは不満だ。そして、この囮捜査そのものに大きな裏があるのだが・・・。

でも、キャロルとトニーの関係を見ていると、どうしてもコーンウェルの検屍官シリーズを思い出しますね。つまり、どう考えても読む方もつらい関係だ。

さて、タデウシュ・ラデツキに接近するために、自らも犯罪の世界に手を染めているように装ったキャロルのセリフを紹介しておきましょう。

「(前略)法の埒外で仕事をしようというなら、堅気の人よりもっと正直にやらなきゃ」
彼は眉をひそめた。「どういう意味です?」
「堅気の世界でなら、約束したものを渡さなくたってせいぜい仕事をなくすか、離婚されるかでしょ。だいたいは本当に恐ろしいことなど起こらない。でもこの世界でやっていて人をだましたら、いずれはとんでもない高い支払いをしなくてはならない(後略)」

(2004.08.08)


書名 殺しの迷路
作者 ヴァル・マクダーミド
翻訳 森沢麻里
出版社 集英社
ISBNコード 4-08-760468-3

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