判事としての黒い法服のしたは、カニの絵がプリントしてあるカラフルなシャツ。テキサス州の小さな町ポートレオで判事を務めるホイット・モーズリーが再び登場だ。このジェフ・アボットの『海賊岬の死体』は、お気楽判事ホイット・モーズリーを主人公にしたシリーズの二作目で、『さよならの接吻』に続く作品だ。カニのシャツを着ているホイットは、判事室に面会に着た女性にこんなジョークを飛ばす。
頭がぼうっとするほどの暑気がポートレオをあぶり焼きにしたというのに、まだ黒いTシャツと黒のパンツを着用している。ふくれ面をして、だめと言われたお嬢様育ちの少女のように、ぷりぷり怒っていた。
「太陽電池パネルみたいな気分になりませんか?」ホイットは言った。
「よけいなお世話よ」
こんな調子が本来の持ち味なのだが、本編『海賊岬の死体』では、物語は脇目もふらずに展開する。
ホイットが現在付き合っている女性ルーシー。彼女の伯父が何者かに殺害された。犯人とおぼしき人物の自殺によって事件は解決するかに思えた。しかし、自殺した犯人が持っていた古い貨幣に注目したホイットは、この事件がかつてこの地で暴れた海賊ジャン・ラフィートが残したお宝をめぐる殺人事件であるとの確信をもつようになる。しかし、その頃町の女性警官、クローディア・サラザーは拉致事件に巻き込まれていた・・・。
<お尻ふりふり>という脳天気な名前のアイスクリーム店の経営など、いろいろな職を転々とし、父親のコネで判事におさまったホイット・モーズリー。そのキャラクターが本シリーズの最大の持ち味なのだが、本編ではその塩梅がよろしくない。前作を読んで、多いに期待しただけに、ちょっと肩すかしをくらった感じだ。
作者ジェフ・アボットがサスペンス色の強い作品を書きたくて、新シリーズに挑戦したという経緯もあって、前作『さよならの接吻』でも事件そのものは連続殺人事件を背景にした凶悪なものだった。しかし一方で、人のいいホイットの父親や、その後妻でホイットからみれば義理の母にあたるものの、ほとんど歳の差がなく、ちょぴり悩ましい存在であるイリーナといった軽妙な脇役を配していた。そして、ホイットが担当する日常の事件も盛り込んで物語に幅を持たせていた。それが、二作目ではちょっと真面目になりすぎている。脇役連も影が薄く、物語の本筋以外の枝葉の部分がないのだ。せっかくの本シリーズの魅力を削いでいる。まあ、そのあたりのさじ加減は難しいものがあるのですが。
ところで、ホイットは前作とは違う女性と付き合っており、なかなかの艶福家なのだが、女性を見る眼力は今ひとつだ。今回も前回同様、付き合っている女性が事件に絡むことになる。隠れた本命はクローディアとにらんでいるのだが、二人の関係がどう進展していくか、このシリーズのもう一つの関心事になりそうだ。
(2004.07.25)
| 書名 | 海賊岬の死体 |
| 作者 | ジェフ・アボット |
| 翻訳 | 吉澤康子 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-174552-1 |