極大射程


昨年の「このミステリーがすごい」の海外部門No1の「極大射程」をやっと読む。年末来面白いミステリーの出版が続いており、なかなか手がまわらなかった。とは言え「このミス」のNo1は過去に何度か挑戦したことはあるのだが、わたしの趣味にはあわなかった。ただ、この「極大射程」に関して言えばズバリ正解である、面白い。

かつてヴェトナムで有名をはせ、勲章までもらった狙撃手ボブ・リー・スワガーはアーカンソー州のウォシタ山脈で隠遁生活をおくっていた。そんなスワガーのもとに彼の狙撃手としての腕をみこんだある依頼がまいこむ。ヴェトナムで彼に負傷をおわせ引退に追いこんだロシア人スナイパーが関係していると知って、その依頼に応える。しかし、その裏にはある組織が巧妙に仕組んだ罠があった。かろうじて窮地を脱したボブだったが、大統領狙撃犯として追われることになる。しかし、ボブはおとなしく引き下がるような男ではなかった、そうでないと物語にならないけれどね。

「それはただ苦境を脱したというだけで、十分ではないからだ。それでは、借りがあるのに、それを返さずに生きていくようなものだと思う。今度は、こっちが借りを返してやる。一セントも残さずな」

そこからボブと謎の組織との対決が始まることになる。謎の組織を率いるシュレック大佐が語るように

「いいか、われわれはやつに死を用意してやった。ところが、間違って生きがいを与えてしまった可能性さえあるのだ。やつを戦場に連れ戻してしまったのだ。やつは生者の世界に戻って、戦うべき戦争を手に入れ、自分の技術と才能のすべてを思う存分発揮できるようになった」

ということで、狙撃という特殊な技量の限りをつくして男達が戦う姿を、極めて精緻でプロフェッショナルな知識で描いていく。この小説の面白さはひとえにその点にある。

謎の組織との対決のほかに、大統領狙撃犯という容疑からいかに脱するかも興味のあるところだが、そのあたりも大変に気の利いた伏線を用意してあって最後まで楽しめる。そして、戦い終わった男はふたたびヘミングウェイ風ストイシズム(これは文中の言葉)の世界へ戻っていく。


書名 極大射程
作者 スティーヴン・ハンター
翻訳 佐藤和彦
出版社 新潮社
ISBNコード 4-10-228605-5
4-10-228606-3