「こんなのは初歩的推理だよ、ワトソン君」
たまたま友人より先に数学の問題を解いたときなどに、シャーロック・ホームズを気取って、こんなセリフを言いたくなったことはありませんか。わたしの世代でミステリ入門はやはり、シャーロック・ホームズだから当然のことですね。それほど多くのファンのいるシャーロック・ホームズ物には、またパロディやパスティーシュも多い。今回紹介するマイケル・クーランドの『千里眼を持つ男』はそうしたホームズ・ファンのツボをしっかり押さえた面白い作品だ。
特にホームズのライバルであるジェームズ・モリアーティが実は犯罪界のナポレオンなどではなく、頭脳明晰な数学者という設定がふるっている。その彼がホームズと協力し、ヨーロッパを戦火に巻き込む陰謀から救うという展開は読者の興味をそそる。ただし、物語の展開は十九世紀らしくおっとりとしている。あくまてホームズ物を下書きにしたその雰囲気を楽しむべきだろう。たとえば、登場するホームズはこんなことを言う。
「無用な事実の寄せ集めは、秩序だった思考の妨げにしかならないね」彼はタバコを深々と吸いこんで、次ぎにゆっくりと吐き出した。
いかにも、ホームズが言いそうでしょ。また、終盤でのワトソンのとぼけた活躍など、実にうまく描かれている。
ところで、冒頭我々の時代ではシャーロック・ホームズがミステリ入門だったと述べたが、近頃はひょっとして『名探偵コナン』なのだろうか?
(2004.06.27)
| 書名 | 千里眼を持つ男 |
| 作者 | マイケル・クーランド |
| 翻訳 | 吉川正子 |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-274788-X |