デイヴィッド・フルマーの『快楽通りの悪魔』を紹介しよう。本書は2002年のシェイマス賞最優秀処女長編賞を受賞した作品だ。処女長編賞というように著者デイヴィッド・フルマーにとって処女作となるが、彼はライターとして、ジャズやブルースに関する記事を多く書いており、そのフルマーの知識がいかんなく発揮されている。
舞台は1907年のニーオーリンズ。娼館や酒場が立ち並ぶストーリーヴィルで娼婦が連続して殺される。殺害方法はさまざまだが、いずれも現場には黒い薔薇が残されていた。街の顔役から依頼されて捜査にあたるのは私立探偵ヴァレンティン・サンシール。黒人の血を引きながら外見は白人と同じヴァレンティンが事件の真相に迫るが、彼の友人でコルネット奏者のバディ・ボールデンが容疑者として警察に追われることに・・・。
ヴァレンティンは私立探偵ということになっているが、それらしい活躍とは無縁だ。もともと謎解きが主体の物語ではないので致し方ないが、もう少し切れ味をみせてくれるとありがたい。人種差別が厳然と残っていたなかで、父親がリンチで殺された経験をもつ。クレオールであるということ。主人公としてふさわしいキャラクターの持ち主なのだが、その像がなんとなくぼんやりしている。小説そのものは非常に雰囲気がある。非常にけだるい、頽廃的な雰囲気が伝わってくるだけに惜しまれる。
ここで、容疑者として登場するバディ・ボールデンは実在の人物で、伝説的なコルネット奏者にしてジャズの創始者といわれている。まだ、少年であるルイ・アームストロングが名前だけだが登場するなど、ジャズの歴史に詳しい人にはうれしい小説だろう。
(2004.06.13)
| 書名 | 快楽通りの悪魔 |
| 作者 | デイヴィッド・フルマー |
| 翻訳 | 田村義進 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-214121-9 |