骨と歌う女


法人類学というのは骨の研究をおこなう学問なのかな? 少し違うような気がする。「人類学の理論と方法によって法を研究しようとする学問分野のことを法人類学」と呼んでいる場合もあって話はややこしい。本書キャシー・ライクスの『骨と歌う女』では一貫して法人類学という表現が使われている。このシリーズは法人類学の専門家テンペランス・ブレナンが、犯罪現場に残された骨を分析することによって犯罪捜査に活躍するという設定で、『既視感』、『死の序列』(未読)につづくシリーズ三作目にあたる。

暴走族の抗争に巻き込まれて射殺された9歳の少女をみて、テンペランス・ブレナン(通称テンペ)は暴走族犯罪対策チームに志願する。おりしも、逮捕された暴走族の証言によって掘り起こされた現場から、身元不明の女性の頭蓋骨が発見される。テンペはその頭蓋骨から女性の身元を割り出そうと努力するが、一方で暴走族の抗争はますます激化し、テンペ自身も巻き込まれていく・・・。

全体としては可もなく不可もなく平均点だが、決め手に欠ける。いかんせんコーンウェルの検屍官シリーズの二番煎じに見えてしまうのが残念だ。テンペの甥であるキットという少年が事件に巻き込まれ、それをテンペが心配するという展開を読まされると、ますますそういった感じが強くなる。作者のライクスは承知の上で、あえて主人公の甥を登場させ、それなりの自信があってのことだろうが、成功しているとは言えまい。また、暴走族の抗争事件に法人類学者がかかわるという展開に必然性が薄い。暴走族の抗争に思えた殺人事件に意外な真相があって・・・という展開がかろうじて説得力を持つといったところか。

否定的な意見を述べたが、細部について専門的な知識が詰まっている点には感心する。
例えば、暴走族の歴史的背景について多くの読者は本書で初めて知ることになる。もとは 第二次大戦後しばらくしてからアメリカの西海岸で生まれるのだが、うまく社会に適応できない復員軍人が中心になっている。やがて有名なヘルズ・エンジェルズに変わっていくのだが、ヘルメットをかぶった髑髏というヘルズ・エンジェルズのシンボルも第二次大戦中の爆撃中隊からとったものだ。そして漠然と眺めていただけでは気づかないがけれど、暴走族は白人だけの組織なんですね。

また、現場に残された血痕から、その事件の様子を再現するという技術はこの種のミステリでは時折紹介されているが、この本ほど詳しく解説されているのは他にないだろう。血しぶきを現象によってスプラッシュ、キャストオフ、プロジェクトに分類するのだが、例えばキャストオフとは凶器から血が飛んだ場合で、血しぶきは直線もしくはかすかに湾曲した線となって残るとか、さすがに作者キャシー・ライクス自身が法人類学者として活躍しているだけのことはある。ここらは本シリーズの持ち味でしょう。

さて、今回は本編の中からちょっと変わったアドバイスを。

椅子を回転させて、窓枠に両足をのせ、プディングの蓋をはがした。ノース・カロライナ大学シャーロット校の同僚が部屋のドアに”人生一寸先は闇。食べるときはデザートから”というステッカーをはっていた。いいアドバイスだと、わたしはいつも思っている。

(2004.06.06)


書名 骨と歌う女
作者 キャシー・ライクス
翻訳 山本やよい
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-274756-1

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