哀しみの街の検事補


ロブ・ルーランドのデビュー作『哀しみの街の検事補』です。現役検事補が検事補を主人公に書いた小説だからと言って、リーガル・サスペンスというわけではない。2002年度のハメット賞候補作だが、かなり異色のミステリといってよいだろ。

ブルックリンの公営住宅で14歳の黒人少女が射殺された。しかも彼女の三ヶ月になる赤ん坊の目の前で。同居していた母と姉によれば、彼女の所に出入りしていた麻薬の売人ラマー・ラムの仕業らしい。ブルックリンでは日常茶飯事といってもいいこの事件を担当するのはアンドリュー・ジョベルティ検事補、通常ジオだった。しかし、ジオは自らの不注意により一人娘を亡くした痛手から立ち直ることができずに・・・。

てなわけで、一応事件らしきものはあるのだが、ストーリーは100ページを経ても遅々として進展しない。なにしろ、主人公ジオ38歳は娘を失ったばかりか、妻には去られ、仕事の失敗からポストも失い、仕事のほうのやる気はいまいち、かなりおざなりな態度だから、事件の真相に肉薄するわけがない。そのくせして女性関係はお盛んという主人公。なぜモテるのか小生にはちっともわからんのだが、これは作者の願望かもしれない。主人公がぱっとしない設定なのは、時折あるパターンだから驚きはしないが、文章がぱっとしないのはいただけない。とにかく読み難い、何が書いてあるのかすっと頭に入ってこないのだ。ロブ・ルーランドのスタイルといってしまえばそれまでだが、頻繁に白昼夢や回想が入るし、周囲の会話が飛び込んできたりして、何がどうなっているのか追いかけるが大変なのだ。これを称して新感覚というのなら、小生は遠慮しておきたい。

ただし、ところどころキラリと光る点もあって、娘をめぐる別れた妻アマンダの心情などは、作者の人間に対する洞察の確かさを感じさせるし、事件の結末も味わいのある展開とも言える。それだけに惜しいなぁ。

さて、そのジオと若い検事補の掛け合いから面白いセリフを紹介しておきましょう。

「大陪審ていうのは、じつはたいした問題じゃないんだ。正直いって、大陪審の連中をやりこめるには、方法はひとつしかない」
「父がいってたけど、”正直いって”という法律家には気をつけろって」
「”ちょっと痛いだけよ”っていう医者もね」

(2004.05.16)


書名 哀しみの街の検事補
作者 ロブ・ルーランド
翻訳 北澤和彦
出版社 扶桑社
ISBNコード 4-594-04641-X

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