シアトルで活躍するフリー・ジャーナリスト、フランク・コーソを主人公とするシリーズは前作『憤怒』に続いてこの『黒い河』で二作目となる。作者はG・M・フォード。本書『黒い河』は全体のバランスがとれた佳作で、ハードボイルド小説ファンにはお薦めできる一冊だ。
サンフランシスコのフェアモント病院が弱い地震で崩壊し、多くの死傷者が出た事件は手抜き工事が原因と思われた。しかし事件の黒幕ニコラス・パラギュラが重要な証人を暗殺し、裁判は審理無効となった。そこで検察側は裁判地をシアトルに変更し、二度目の公判が始まろうとしていた。そしてフリー・ジャーナリスト、フランク・コーソはこの事件の取材を行っていた。コーソの元恋人でカメラマンのメグ・ドアティも独自に取材をしていたが、彼女は何者かに追われ逃走中に交通事故で重傷を負ってしまう。ドアティがなぜ追われていたのか、調査をつづけたコーソはやがて公判中のパラギュラの事件の真相をつかむが、彼自身にも危機が迫っていた・・・。
物語はマフィアの不正との戦いが中心だが、そこに不可解な殺人も絡んで複雑な展開をうまくさばいている。
前作では死刑執行のせまった死刑囚の無実を証明するという物語で、この特異な設定に引きずられてしまった印象があったが、この二作目でハードボイルドのシリーズ物として確立された感がある。すなわち、本書ではハードボイルド物としてのお約束を守りながら魅力的な主人公の造形に成功している。例えば、<ソルトハート>というボートで寝起きするというライフスタイル。メグ・ドアティやボディーガードを引き受けてくれるジョー・ボッコという脇役。朝鮮戦争で捕虜となり帰還した父親との苦い思い出。また、法によらない正義の実行。さすがに、著者フォードはハードボイルド小説を愛読しているというだけあって、押さえるポイントを心得ている。今後が楽しみなシリーズとなった。
もっとも前作から微妙な軌道修正もあって、相変わらずのタフぶりなのだが、スティーヴン・セガールに似たという表現が出てこない。また、後ろ盾となってくれたシアトル・サン紙の女社主も登場してこない。本書の解説でも指摘されているように前作との日付の不整合など、意識的な軌道修正と見たい。
コーソが被害者の息子に語る言葉を紹介しておこう。
「理由づけというのが一番気をつけなければならないことなんだ」コーソは言った。
「手前勝手な理屈や、えせ心理学めいたでたらめが醜い頭をもたげるのは、その段階なんだよ」
「なぜです?」
「なぜかというと、まず第一に、人々の行動の理由を考え出すと、彼らが自分で理由がわかって行動していたという前提に立ってしまうことになるんだ。そうじゃないか?」相手に答える暇を与えずコーソは続けた。「だがおれの経験からして、その前提はまちがいだ。人間の行動の大部分は、見ている者にとってと同様に本人にとっても謎なんだ」
ジャーナリストとして多くの事件をみてきたコーソならでは、というところか。
(2004.05.09)
| 書名 | 黒い河 |
| 作者 | G・M・フォード |
| 翻訳 | 三川基好 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-202112-4 |