今週はグレッグ・アイルズの『戦慄の眠り』です。つねに水準以上のサイコ・サスペンスを提供してくれるアイルズの『24時間』に続く新作だ。今回は、誘拐した女性の死にゆく姿を絵画にするという、まさに戦慄の犯行をくり返す謎の画家をめぐるサスペンスだ。
二度ピュリッツァー賞を受賞した父のあとを継いで、自らも戦争カメラマンとなったジョーダン・グラスは取材先の香港の美術館で「眠れる女」と題する連作絵画を見て愕然とする。そこには行方不明となっている双子の妹ジェーンの姿があった。ジェーンはニューオーリンズ一帯で連続して発生していた女性誘拐事件の5番目の被害者として十三ヶ月前から行方が知れなかったのだ。ジョーダンは事件との関係を求めて「眠れる女」を扱った画商ウィンゲイトをニューヨークに訪ねるが、画廊は何者かに放火されウィンゲイトは焼死する。しかし、FBIの捜査によって「眠れる女」の制作に使われた特殊な絵筆より四人の容疑者が浮かび上がるのだが・・・。
相変わらずアイルズの導入部はうまい。物語の舞台も香港、ニューヨーク、ニューオーリンズと矢継ぎ早の展開で、20ページも読まないうちに物語に引き込まれる。また、終盤は真犯人との対決と一気呵成に読ませる。そのわりに途中が物足りない、と思うのはわたしだけだろうか。従来のアイルズ作品『神の狩人』、『24時間』では犯人との壮絶な心理戦が魅力だったのだが、本編ではそのあたりが影をひそめ、四人の容疑者から真犯人を見つけ出すという謎解きに傾いている。もっとも、わたしは四人以外の真犯人の出現を予想したのだが、意外にもストレートな展開でした。
物語の展開とは関係のない話だが、ジョーダンを護衛してくれるFBI捜査官としてウェンディ・トラヴィスなる女性が登場してくる。彼女についてこんな紹介がされている。
ウェンディは一九九二年、FBIアカデミーに入学した。つまり、映画『羊たちの沈黙』でジョディ・フォスターが演じた訓練生の姿に感動して入局した、”スターリングかぶれ”の一人なわけだ。
これはアイルズの創作ではなくて、実際に『羊たちの沈黙』に触発されてFBI捜査官となった女性がたくせんいるのでしょうね。もっとも、続編の『ハンニバル』を読めば気が変わっただろうと思いますが。
主人公ジョーダン・グラスは女性ながら戦争カメラマンという設定なのだが、彼女の思考はその経験をよく反映している。
「意外じゃないわね。戦闘を嫌というほど見ると、武器で問題が解決できるなんて幻想は持てなくなるもの」
イラク問題に対して統合参謀本部長だったパウエル国務長官が慎重な姿勢をみせ、またヴェトナムで五つの勲章のうけた民主党のケリー上院議員が批判的であるのをみるにつけ、この言葉は的を射ていると思う。そして、今の日本の指導者たちがそうした経験を持たないのも事実ですね。
(2004.05.02)
| 書名 | 戦慄の眠り |
| 作者 | グレッグ・アイルズ |
| 翻訳 | 雨沢泰 |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-273987-9 4-06-273988-7 |