罪の段階


このところリチャード・ノース・パタースンの作品を遡って読んでいます。今回は『罪の段階』です。この『罪の段階』に始まる、『子供の眼』、『最後の審判』をパタースンの法廷三部作という呼び方もするが、この三部作は非常に良く構成が練られている。本編でも『子供の眼』につながる伏線もしっかり描きこまれている。パタースンがかなり先の構想まで持って書いていたことが良く分かる。

弁護士クリス・パジェットはかつてメアリ・キャレリという女性と関係があり、カーロという息子までもうけるが、彼がカーロを引き取っていらい没交渉となっていた。しかし、その後テレビ・インタビュアーとして成功していたメアリが、著名な作家マーク・ランサムを殺害した容疑で逮捕された。ランサムの次回作の取材にホテルの部屋を訪れ、レイプされそうになり、銃が暴発したというのがメアリの言い分だった。メアリの弁護を引き受けることになったクリスだが、やがてこの事件の背景に彼やカーロまでを巻き込む秘密があることを知る・・・。そして、メアリの主張と食い違う証拠が明らかにされ・・・。

パタースンがデビュー作『ラスコの死角』から『罪の段階』を書き上げるまでの経緯については本書(文庫本)の訳者あとがきにくわしいが、二足のわらじで大変だったらしい。わたし自身にとっても、『ラスコの死角』というのはかなり面白かったという印象があったにもかかわらず、パタースンという著者名と結びついていなかったために、『罪の段階』や『子供の眼』を読みのがしていたというかっこうだ。

法廷ミステリという側面で見ると、この事件は殺害したのは事実で、それが謀殺なのか正当防衛なのかが問題という設定。従って、白黒つけるといってもいささか歯切れが悪い。
本当は、誰かをかばっていて、真犯人は別にいるという大胆な展開を予想していたのだが、かなり政治決着の色彩が強いので、不満の向きもあるだろう。もっとも、行方不明となり検察、弁護双方が必死に探すテープがあるのだが、その中で何が語られているかが、この事件の本当の謎とも言える。そこではクリスに関わりのある事実が明らかにされる。

このシリーズのテーマが親子の絆であることは明白だ。しかし、絆であると同時にしがらみでもあって、そのことはシリーズをおうごとに色濃くなっているように思える。パタースンはそうした人間の内面の問題と、臨場感あふれる法廷での駆け引きという法廷ミステリの真髄をバランス良く描くことに成功している。『罪の段階』以降のパタースンの充実ぶりは目を見張るものがある。そのわりに日本でブレークしないのが不思議ですね。

ところで、ジェームス・コルトという飛行機事故でなくなった上院議員にまつわる秘密というのが、事件の裏にあるのだが、このジェームス・コルトというのが実にジョン・F・ケネディを連想させるのですね。無論、モンローに相当する女優の登場する。この話の成り行きから見るかぎり、パタースンはケネディ嫌いのような気がしますね。

さて、クリスはなかなか真実を語ろうとしないメアリに対して、こんなするどい皮肉を言う。

「わたしのことを、少しも信じてないのね?」
「そんなことはない。きみの言葉の、ふたつにひとつぐらいは信じるよ。もちろん、コンマも一語と数えてだが」

もっとも、そのクリス自身、同僚の弁護士テリーザ・ペラルタに向かってはこう語っている。

「弁護の戦略を組み立てるときに、真実が想像力の働きを妨げる場合さえある」

(2004.04.25)


書名 罪の段階
作者 リチャード・ノース・パタースン
翻訳 東江一紀
出版社 新潮社
ISBNコード 4-10-216011-6
4-10-216012-4

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