ジョン・J・ナンスは前作「着陸拒否」において、謎の病原菌に感染した患者を運ぶ旅客機が着陸拒否にあい、迷走する姿を描いた。なかなか面白い作品だったが、今回の「メデューサの嵐」も同じく航空機を舞台にしたミステリーだ。
核爆発と共に発生する電磁波パルスですべての電子回路を破壊するというメデューサ兵器を積み込んでしまったボーイング727。もし爆発が起こればアメリカの東海岸は壊滅的な影響をうけるという設定だ。刻一刻とせまるタイムリミット。巨大なハリケーンに翻弄されながら米国を救うためにスコット・マッケイ機長をはじめとして乗組員は危険な解決策に挑む、といった展開だ。前作「着陸拒否」では旅客機が戦闘機とドッグファイトまがいを演じたのだが、今度はボーイング727が空母に着陸するという離れ業が描かれている。ちょっと大胆な、というより無茶な設定だとは思うが、全体としては主人公マッケイ機長もスーパーマンではなく普通の男として描かれている。そして政治的思惑が飛行機を翻弄するという構図も前作と同じなのだが、FBIや軍上層部が敵役なのにたいして大統領は善玉として描かれている。
統合参謀本部議長は周囲を見回し、返事をする前に数秒間大統領を見つめた。そしてゆっくり首を振り始めた。「われわれはミセス・ヘンリーに関して何の見解も持っていません。この爆弾を本物として扱ったほうがいいと思うだけです」
「役人並のそつない答弁だが、わたしはミセス・ヘンリーについてのきみ個人の考えを知りたいのだ。”われわれ”に訊いたのではない。きみに訊いたのだ」
「わたしには考えはありません」と将軍は切り返した。
「ならば、持つのだ。(後略)」この事件を企んだ物理学者の妻で、飛行機にも乗り合わせているヴィヴィアン・ヘンリーに関する会話だが、なかなか鋭く官僚的な態度をやり込めている。また、最終的にボーイング727が自力で爆弾の処理のあたることになった際にも、無線電話でじかにスコット機長と話すことになる。
この電話は意味があった。
「はい、大統領」
「スコット、そちらの前途には困難な任務がひかえているし、わたしはせいぜい数十秒しか使えないんだが、きみが正しかったことをわかってもらいたかったのだ。(中略)われわれは失態を演じて、きみたちが自分の力だけでそれを始末せざるえないようにしてしまった。わたしはきみたちがこれほどわずかな助けしか得られなかったことを心からすまなく思う」
「わたしは・・・それを認めてくださったことを感謝します」
「ここからでは何の手助けもできないと思う。祈る以外には。わたしは待機している。成功を祈る、スコット。きみの大統領ときみの祖国はすでにきみたち全員に限りない感謝を捧げている」「きみの大統領ときみの祖国は・・・」なんてうまいセリフですね。実際の大統領をはじめとして米国の政治家はこうしたレトリックが上手ですね。小説や映画のなかの大統領だけではない。わがオブチ君には望むべくもないか。
ところで内容とまったく関係のないことで気にかかることがこの本にはあるんです。内面の独白を表現する場合にはやや細い明朝体、大声でどなった場合にはゴシック体と、フォントが変えてあるのだ。いつから新潮社はこんな変な趣味になったのか知らないが、とにかく感心しない。これだけは直してほしいところだ。
| 書名 | メデューサの嵐 |
| 作者 | ジョン・J・ナンス |
| 翻訳 | 飯島宏 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-204712-3 4-10-204713-1 |