子供の眼


リチャード・ノース・パタースンの『子供の眼』です。『最後の審判』の一作前にあたる作品で、同作品で主人公をつとめたキャロライン・マスターズが脇役の辣腕弁護士として登場している。このようにパタースンの作品ではキャラクターが立場をかえて登場してくるが、わたしのように本来の順番とは逆に読んでもいっこうに差し支えない。むしろ、登場人物の背景について知っているだけ、面白く読めるという側面もある。たくさんいる法廷ミステリの作家のかなでも、リチャード・ノース・パタースンはコンスタントに面白い作品を書く数少ない一人なのだが、なぜか日本ではブレークしていないように思うのはわたしだけか? ジョン・グリシャムのように作品が映画化でもされれば状況が変わるかもしれない。

著名な弁護士クリス・パジェットは上院選への出馬を要請される。おりしも、クリスの恋人テリーザ・ペラルタは夫リッチーとの離婚協議中で一人娘エリナの養育権をめぐって争っていた。しかもリッチーはエリナがクリスの息子カーロに性的虐待を受けたと申し立てをおこない、泥仕合の様相を呈しつつあった。そんななか、当のリッチーが何者かに殺され、クリスが容疑者として逮捕される。確かにありあまる動機に不確かなアリバイ、疑わしい点はあるものの、逮捕には政治的な思惑の匂いもした。不利な状況のなか、クリスの弁護士キャロライン・マスターズは鮮やかな手際で検察側の証拠を切り崩していくが、その先にみえてきた真相は・・・。

リチャード・ノース・パタースンの作品で共通しているテーマは家族の絆であり、しがらみと言ってよいでしょう。この『子供の眼』ではテリーザの母親や父親との思い出が丁寧に描かれ、それが事件に影を落としている。『最後の審判』でも、殺人事件の真相そのものよりキャロライン・マスターズの一家が抱える反目の原因となった出来事そのものが謎として扱われていた。ただし、本編はどちらかと言えばやはり圧倒的な法廷シーンに魅力がある。後半は陪審員の選定にはじまって、評決までをたっぷりと描いて飽きさせない。するどい読者なら性的虐待の真相と真犯人の見当はつくと思うが、それでも十分に楽しめる一作だ。

ところで、テリーザの母親は事件の鍵を握っている人物でもあるが、夫で苦労した人だけあってクリスとの関係に悩む娘にむかってこんな事を言う。テリーザとクリスの関係には当てはまらないかもしれないが、一般論としてはなかなか鋭い視点であります。

「それなら、自分の胸にきいてごらんなさい。『クリスはほんとうに、わたしを愛しているのかしら? 恋人に自分よりずっと若い女を望む男は、相手の女より自分自身の若いころに恋をしているのじゃないかしら?』とね」


書名 子供の眼
作者 リチャード・ノース・パタースン
翻訳 東江一紀
出版社 新潮社
ISBNコード 4-10-216013-2
4-10-216014-0

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