雨の影


今週はバリー・アイスラーの『雨の影』です。『雨の牙』でデビューした日米ハーフの殺し屋ジョン・レインを主人公にしたシリーズの続編になります。前作の時は気付かなかったけれど、主人公がレインだから『雨の・・・』というタイトルなのね。原題も"RAIN FALL"と"HARD RAIN"となっている。

大阪に身を潜めていたレインの前に通称タツこと、警視庁の石倉達彦が現れる。日本政界の黒幕、今岡俊がつかっている殺し屋が新しい標的だった。あまりに危険な標的にレインは躊躇するが、敵もレインの周辺に手を伸ばしてきた。そしてCIAの介入もあり、レインは後に引けない状況においこまれるが、その時かつて別れたジャズピアニスト川村みどりと再会する。

著者のバリー・アイスラーは弁護士として日本に三年間住んでいたことがあり、その知識を活かした物語の設定が特徴的だ。本編でも恵比寿ガーデンプレイスで尾行する人間をあぶりだすなど、詳しいところを見せている。また、最近の日本の出来事についても調査しているらしく、住基ネットの話題も登場してくる。実はこうした細部へのこだわりこそが『雨』シリーズの本質だろう。クラブのホステスとの会話、登場するウイスキー。読みながら、初期の北方健三さんのハードボイルド小説を思い出してしまった。物語は読者の予想通りに展開するし、いささか現実味が薄いが、そのスタイリッシュな雰囲気は十分楽しめる。でも、敵役の殺し屋の名前が村上竜だなんて、何か意味があるのかなぁ。

さて、前作『雨の牙』を読んだ方はご承知だろうが、レインはピアニストみどりの父親を殺している。本編ではみどりもその事に気付き、こんな会話が登場する。

「俺には・・・俺にはルールがある。女は殺さない。子供は殺さない。本来の標的以外には手を出さない」
自分の言葉が愚か者の呪文のように退屈に耳に響いた。生気に満ちた魔力をふいに奪われた、魔除けのまじない。
彼女が苦い笑いを漏らした。
「”俺にはルールがある”ね。客とはファックしてもキスはしないのよと言って、貞操を認めてもらいたがる売春婦みたい」
胸にこたえた。

ちなみに著者のアイスラーは日本語のホームページ(http://www.barryeisler.com/j/index.htm)を持っており、この川村みどりが誰をイメージしていたかなど、面白い話ものっている。

あとがきによれば、次回作がテロ組織との戦いだそうだが、かなりイメージの異なる作品になりはしないか心配だ。あくまで彼は殺し屋であって、アメリカの言う正義のために戦うなんておかしい。これも同時多発テロ以降の空気の影響かもしれないが、気掛かりだ。


書名 雨の影
作者 バリー・アイスラー
翻訳 池田真紀子
出版社 ソニー・マガジンズ
ISBNコード 4-7897-2182-5

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