殺戮


ポール・リンゼイの書くFBI捜査官マイク・デヴリンを主人公にすえたこのシリーズはお薦めだ。前二作が大変面白かったので、次回作を楽しみにしていたのだが、このたびやっと三作目が出版された。いずれも水準以上の面白さだと思う。第一作の「目撃」を書いた当時、ポール・リンゼイは現役の捜査官だったというだけあって、犯人に肉薄していくその過程が実に綿密に描かれ、臨場感をもって読者に迫ってくる。

主人公のマイク・デヴリンは腕はたつのだが、いかんせん無鉄砲というか自らの危険をかえりみないやり方で事件を解決するものだから、デトロイト支局の上司ボールディングからしばらく大人しくしているように、ワシントンの本部でのデスクワークを押しつけられる。ワシントンでの上司トム・オヘアがいう。

オヘアが微笑む。「エリック・ボールディングからきみを寄越すといってきた。きみは崖っぷちに近寄りすぎるとボールディングはみてるんだ」

デスクワークを押しつけられたデヴリンだが、期せずして発生した凶悪犯罪について調査するうちに、いつものように最前線で活躍することになる。犯人はディズニィー・ワールドでラッサ熱ウイルスをばらまいたり、自動車や旅客機の爆破を企んだり、次から次へと犯行を重ねる。デヴリンは筋ジストロフィーの事務職員トニー・ボネリと犯人の痕跡をたどりながら、少しずつ追いつめていく。ここらあたりは本当に真実味があってこのシリーズの醍醐味といってよい。
ただあえて難を言えば、犯人は旅客機に爆弾を仕掛けたり、サリン爆弾を用意したり、陸軍の兵器補給所から地対地ミサイルを盗み出したりするのだが、そこらはあっさりしすぎている。「本当にそんなに簡単かなあ」と思ってしまう。犯人側の犯行をもっと緻密に描けば申し分ないところだろう。

ところであまりの無鉄砲さに、デヴリンの妻ノックスはいささか機嫌が悪い。サリンの入った容器を間一髪で爆発から救ったときもデヴリンは

「きみを発見した警官と話をしたんだが、きみはあの容器をフットボールのタッチダウンみたいな格好で抱きしめてたそうだ。担架で運ばれるとき口走った言葉をおぼえているかね」
「いいえ」
「テレビで見てカミさんがもどすといけないから、顔になにかかけてくれといったそうだ」

などと変な心配をしている。デヴリンは今回の活躍が認められ、次回からはFBI長官直属の特命捜査官のような立場になる。従ってノックスの心配も一層エスカレートしそうだ。また脇役としていい味をだしていたトニー・ボネリも次回作以降でも活躍が期待できそうだ。


書名 殺戮
作者 ポール・リンゼイ
翻訳 笹野洋子
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-264821-0