デニス・ルヘインの『ミスティック・リバー』です。本書が映画化され、その公開にあわせて文庫本になったので、デニス・ルヘインの作品で唯一読みのがしていた『ミスティック・リバー』を手に取りました。単行本の方は2001年に出版されており、宝島社の「このミステリがすごい」の海外編で10位に、週刊文春の「ミステリ・ベストテン」の海外編では2位と高い評価を得ている。高い評価の理由もわかる気もするのだが、もともと単行本が出版されたときに、なんとなく敬遠したわたしの直感は正しかった、というのが感想だ。
十一歳のショーン、ジミー、デイヴの三人が遊んでいるところに近づいてきた警官らしき二人の男。彼らはデイヴをつれさる。四日後デイヴは戻ってくるが、何をされたかは誰の目にも明らかだった。それから三人はそれぞれの道を歩むことになる。そして二十五年後、ジミーの十九歳になる娘ケイティが何者かに殺される。事件の捜査にあたるのは殺人課の刑事となっていたショーン。やがて容疑者としてデイヴの名前が浮かび上がる。再び交差する三人の人生・・・。
ミステリという範疇には入るが、事件の謎解きが主題ではない。事件をめぐる関係者の心情を丁寧に描いている。被害者の親として立場、容疑者の妻としての立場等のゆれ動く心を描くことに筆致をさき、人の運命の不条理や、人生の哀しさを描いている。この話を正面から受け止めるには読む側にもエネルギーが要求されるが、評論家諸氏にはうけることだろう。
だがデニス・ルヘインのデビュー作『スコッチに涙を託して』から読んでいる読者の立場で言えば、不満が残る。その理由をつらつら考えたのだが、わかったような気がする。デビュー作から『雨に祈りを』までのパトリックとアンジーのシリーズと本書のテーマの同一性については解説の関口苑生さんの書いているとおりなのだが、大きな違いが一点ある。パトリックとアンジーのシリーズではブッバ・ロゴウスキーのようなユニークなキャラクターを用意することによって物語全体に余裕や幅があった。この『ミスティック・リバー』ではよく言えば精魂込めてまじめに書いているのだが、遊び心がないためかルヘインが考えるほど、効果を上げているとは思えない。ここで描かれることを読んでも「だから、なんなんだ」という印象が残ってしまう。不満だという理由です。
ただ、この世の中の暗部を描いているせいもあって、なかなか考えさせるセリフが登場する。例えば、ジミーの義兄のセリフだ。
「刑務所で、ある男がおれに言ったことがある。”幸せは一瞬訪れて、次の瞬間まで戻ってこない。それには何年もかかることがある。しかし哀しみは”ーー」ヴァルはウィンクした。「ーー”哀しみは居座る”ってな」
『ミスティック・リバー』でデニス・ルヘインをこので知った人は、こりずに(?)パトリックとアンジーのシリーズ(こちらは新潮社でデニス・レヘイン名義)を読んでみることをお勧めする。
| 書名 | ミスティック・リバー |
| 作者 | デニス・ルヘイン |
| 翻訳 | 加賀山卓朗 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-174401-0 |