コールド・ロード


昨年『サイレント・ジョー』ですっかり名をあげたT・ジェファーソン・パーカーの新作『コールド・ロード』を紹介しましょう。まったく別な物語なのだが、パーカーの作品の系譜からいえば、『サイレント・ジョー』の流れを汲む作品と言ってよいだろう。豊かな余韻が残る読後感はさすがにパーカーで、「面白いミステリ」というより「好きなミステリ」という感想を抱く読者が多いのではないかと思う。

サンディエゴ市の元市長にして実力者のピート・ブラガが自宅で何者かに撲殺される。殺人課の部長刑事トム・マクマイケルが捜査を担当することになるが、ブラガ家とマクマイケル家の間には三代にわたる確執があった。マクマイケルはその確執を胸に抑え、捜査にあたるが、発見者でブラガの身の回りの世話をしていた看護婦サリー・レインウォーターが最初の容疑者だった。しかし、港湾委員会にからむ利権、ピートの遺産相続問題、さらには警察内部の不正問題も浮上し、事件は意外な展開をみせることに・・・。

『サイレント・ジョー』では犯人は判っていて、その事件の背景が謎解きの対象であったが、『コールド・ロード』では真犯人をめぐる謎解きも大きな要素になっている。とは言え、主人公トム・マクマイケルの恋愛小説の側面もあって、両家の確執に阻まれたかつての恋人でピートの孫娘パトリシアとの再会、そして分けれた妻ステファニー、新しく知り合った女性サリー、その間でゆれうごくマクマイケルの心が丁寧に描かれている。パーカーというのはとても会話のうまい人で、三人の女性以外にも、マクマイケルの息子ジョニー、父であるガブリエル、さらには事件関係者とのさまざまな会話のなかに各人の思い入れがよく表現されている。

パーカーの作品で安心できるのは、犯罪につながる憎悪や人の運命のはかなさを描いていながら、それでもまだ信じるに足る世界があるという、最後にはそんな気持ちにさせられる点ですね。「好きなミステリ」というゆえんだ。

ところで、パトリシアは夫を別れることを決意した後に、こんなことをマクマイケルに言う。

「彼の悪口を言うのはやめなくちゃね。こんなふうに荷物をまとめていると、なんだか悲しくなるわ。あの人とは九年間一緒に暮らしたけど、そんなひどくもなかったような気がする」
「わたしも同じような思いをした」とマクマイケルは言った。「惨めな日々が続いていたとしても、最後はいい思い出だけが残るんだ」

マクマイケルの言葉は彼の本心だったが、パトリシアの言葉には別の意味もあるのだが、それは読んでのお楽しみです。


書名 コールド・ロード
作者 T・ジェファーソン・パーカー
翻訳 七搦理美子
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-208519

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