死のように静かな冬


育った地方の気候は人の性格に影響を与えると思うけれど、ウィリアム・K・クルーガーの『凍りつく心臓』、『狼の震える夜』やスティーヴ・ハミルトンの『氷の闇を超えて』を読むと、物語の舞台もミステリの性格に影響を当たると思えてくる。そして今回紹介するP・J・パリッシュの『死のように静かな冬』もそんな作品だ。舞台はミシガン州の湖畔の町ルーンレイク。厳しい寒さと雪に閉ざされた町でおこる事件は冷え切った心に染みいるような結末を迎える。

ミシシッピ州の警察を辞めたルイス・キンケイドは北へと流浪し、ミシガン州ルーンレイクの警察官として採用される。そして採用されたあとに、彼の前任者が何者かに殺害されたことを知らさせる。その事件の捜査を任されたキンケイドだったが、すでに退職している元警察官の遺体が新たに発見される。警察に怨みをもつ何者かの仕業に思えた。キンケイドは強烈は個性をはなつ署長ジブラルタルとぶつかりながら、真相を追うのだった。

ルイス・キンケイドは白人の父と黒人の母をもち、どちらにも属さないという疎外感を根底で持っているし、前の職場での事件も彼に大きく影響を与えているようだが、その事件については詳しくは語られない。おもしろい背景をもっているのだが、それを十分に活かしきっているとは言い難い。それというのも、この種のストーリーでは主人公にどれだけ感情移入できるかが魅力の一つなのだが、その点で物足りなさが残るからだ。ルイス・キンケイドはこの『死のように静かな冬』ではまだ25歳で、若いといってしまえばそれまでだが、いささか感情の抑制がきかない、他人に対する許容幅も狭い。ついT・ジェファーソン・パーカー『サイレント・ジョー』のジョー・トロナやディック・フランシスの競馬シリーズに登場する主人公と比べるのも酷だとは思いながらも、「もっとしっかりしろ!」と思いながら読むことになる。

ところで、著者のP・J・パリッシュは二人の姉妹のペン・ネームで、その点ではエラリー・クイーンを思い出しますね。二人のホームページ(http://www.pjparrish.com/)もあって、それを見て判ったのだが、日本では本編が初めての翻訳だが、ルイス・キンケイドのシリーズとしては二作目にあたる。本編でキンケイドの背景について中途半端な説明になっているのはここらに原因がありそうだ。本国では今年の9月にシリーズ四作目が出版されていが、アマゾンの書評あたりではかなり高い評価を得ている。これからの人かも知れない。

ところで、本編に登場する警察署長ジブラルタルは主人公以上に強烈な性格なのだが、引用癖もあって、いたるところで引用が登場する。その中から一つ紹介しましょう。

「ボードレールだよ。”敬意を払われる価値のある人間は三種類しか存在しないーー聖職者、兵士、それに詩人である。知り、殺し、創造する者”」といって笑みを浮かべる。
「わたしたちは聖職者でも詩人でもない。残るは兵士だけだ」

書名 死のように静かな冬
作者 P・J・パリッシュ
翻訳 長島水際
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-174301-4

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