火災捜査官


今週はスザンヌ・チェイズンの『火災捜査官』です。FDNY(ニューヨーク市消防局)の火災捜査官ジョージア・スキーアンを主人公にしたシリーズの一作目にあたる。9月11日のテロ以降の傾向でもないのだろうが、リドリー・ピアスンの『炎の記憶』など放火をテーマをしたミステリが目立つような気がする。ただし、この『火災捜査官』はそんなブームに便乗しただけではない。実にしっかり書き込まれており、なかなか出来のいい作品となっている。

ニューヨークのソーホー地区で発生したビル火災は54名もの死者を出す結果となった。尋常ならざる火の回りの速さと超高温が原因だ。HTA(高温助燃剤)の痕跡を見つけた女性火災捜査官ジョージア・スキーアンだったが、消防局の科学捜査研究所の同僚から過去数ヶ月の間に同様の火災が発生してることと、”第四の天使”と名乗る人物からの脅迫状の存在を知らされる。消防局の上層部が連続放火をかたくなに否定するなか、狡知にたけた犯人は次の狙いを定めていた・・・。

警察の仕事なら知恵で勝負するといった側面があるだろうが、消防は警察以上に体力本位の仕事だ。それだけに男女差別の強い消防局という職場で孤軍奮闘するジョージア。えてしてこうした物語では強い差別意識を持っている男性登場人物は仕事もできないダメな奴として描かれることが多いが本書はそんなに単純な構造ではない。パターン化を排し、個性的な登場人物がいきいきと描かれている。ジョージアの火災捜査官になる前の消防士時代の失敗と、それを払拭することになる出来事など、彼女自身の成長もさりげなく織り込まれている。肝心の放火事件の真相も巧みな展開(やや複雑にしすぎている感もあるけれど)を見せる。犯人の放火予告に対し、いかにして大惨事を防ぐかといったスリリングなクライマックスを迎える。そういう意味では実にバランスのいい作品で、次回作も楽しみだ。

ところでジョージアの友人で、先輩でもあるベテラン消防士ジミー・ギャラガーはジョージアの母親とつきあっているのだが、そのギャラガーの言葉。

「ワインに女性に木材。どれも、年を経れば経るほど味が出てくるものだ」

この三つの中では木材が一番わかりやすい。残りの二つ、女性とワインの味について云々するのはまだまだ経験が必要ですね。


書名 火災捜査官
作者 スザンヌ・チェイズン
翻訳 中井京子
出版社 二見書房
ISBNコード 4-576-03209-7

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