チェイシング・リリー


今週はマイクル・コナリーの『チェイシング・リリー』といこう。原題は"CHASING THE DIME"。「ダイム(十セント硬貨)を追っかけろ」といった意味だが、これは本編『チェイシング・リリー』の主人公がスーパーコンピューターを十セント硬貨の大きさにしてしまうナノテクノロジーを追究していることに由来している。マイクル・コナリーと言えばハリー・ボッシュ・シリーズが有名だが、これは単発作品だ。それにしてもマイクル・コナリーがナノテクとは意外な組合せですね。

ナノテクのベンチャー企業<アメデオ・テクノロジー>の若き代表ヘンリー・ピアスは転居して電話番号が変わったとたん、「リリーを出せ」という怪しげな電話を受けることになる。リリーはどうやらエスコート嬢であることが判り、webサイトでリリーの存在を知る。確かにそのwebサイトではリリーの連絡先としてピアスの新しい電話番号が記載されていた。ピアスはサイトの管理者に訂正を求めようとして、リリーが行方不明になっていることを知る。好奇心からリリーの行方を追うピアスは、リリーが犯罪に巻き込まれた痕跡を発見するが、逆に自らに犯罪の容疑がふりかかってくる。有力な投資家へのプレゼンテーションをひかえながら窮地に陥ったピアス。真相に迫ろうとするのだが・・・。

webサイトで見ただけの女にどうしてそこまで入れ込むのか。また、偶然に巻き込まれてしまった事件でどんな結末を用意しているのか、と疑問に思いながら読むことになるが、そこはさすがにマイクル・コナリー、あざなかな展開をみせる。ピアスが科学者らしいアプローチで真相に迫るあたりもなかなかのものだ。ボッシュ・シリーズのような重苦しさもなく、明るいイメージの作品である点も好ましい。ボッシュ・シリーズのような暗然たる物語を書いていると、時にこうした心地よいタッチの小説を書きたくなるのは作家の生理でしょうか。

しかし面白いと思いながらも、マイクル・コナリーと言えば、やはりボッシュ・シリーズとの想いも強い。それは誰しも同じと見えて、本書の訳者あとがきでも、ボッシュ・シリーズの次回作について丁寧に紹介されている。ボッシュ・シリーズにこだわりたくなるのは読者の生理でしょうか。

些末な粗を言うと(自分の知識をひけらかしているだけですが)、本書の中で予定より早く特許を出願して相手の裏をかくという話が出てくる。だがアメリカの特許制度は先発明主義といって先に発明した者に権利があるという制度なので、出願日はそれほど重要な意味を持たないので、この話はちょっとおかしい。ちなみの日本を含め多くの国では先願主義といって、先に出願した者に権利があるという制度です。

さて、ピアスに容疑がかかり、弁護士の登場となる。その会話を紹介しておこう。

「ジャニス・ラングワイザーです。お会いできて嬉しいわ」
「ヘンリー・ピアスです。いまの状況であなたに会えて嬉しいとは言えないですが」
「刑事事件の被告弁護の仕事は、いつもそういうものです」

なお、リリーが載っていたwebサイトはhttp://www.la-darlings.comなのだが、このサイトは実在する。実際はこのURLをブラウザーに入力するとあるサイトに転送され、Would you risk your life for a woman you'd never met?と表示される。何のサイトかは実際にアクセスしてみていただきたい。


書名 チェイシング・リリー
作者 マイクル・コナリー
翻訳 古沢嘉通・三角和代
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-208510

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