ボストン、沈黙の街


今週はウィリアム・ランデイの『ボストン、沈黙の街』です。レスリー・フォーブスの『ボンベイ・アイス』の後だから、よけいそのように感じるのだろうが、実に読みやすい。小説はこうじゃなくちゃいけない。ただし文章は読みやすいが、物語は一ひねりも二ひねりもあって、長編デビュー作とは思えない出来に仕上がっている。

メイン州ヴァーセイルズで若き警察署長を務めるベン・トルーマン。事件らしい事件も起こらない田舎町だったが、湖畔のロッジでボストンの地方検事補が殺されているのを発見したことからベンの人生は大きく変化する。捜査の主導権は州にあったものの、事件の真相を求めてベンはボストンへ向かう。偶然知り合った元敏腕刑事のジョン・ケリーの助けを受けてボストンの街をゆく。ボストン市警は被害者ダンツィガーが担当していた事件と関係のある麻薬組織のボスに目星をつけ捜査を進めていたが、ベンの調査によって過去の事件の真相があぶり出されてきたのだった。

警察署長といっても田舎町の警察で、ベン・トルーマンは殺人事件の捜査の経験もなく、まだ二十五歳という若さだ。そもそも歴史学者になろうとしていたのを、事情があって警察署長をしていた父の跡を継いでしまった。てっきり未熟な警官が、ベテランの力も借りて成長する物語とばかり思っていると、とんでもない結末がまっている。読者は物語の中盤である程度事件の真相が見えたように思うが、それにもかかわらずフィリップ・マーゴリンをして「エンディングのサプライズは白眉である」と言わせしめるラストが用意されている。これから読む方はどうぞお楽しみに。ただし、この結末には賛否をめぐってそうとう意見が分かれるでしょうね。

あえて『ボストン、沈黙の街』のテーマを語れば、ネタばれになるので、詳しく言えないのがつらいところですが、法と正義の名の下にどこまで許されるか、ということでしょうか。ただウィリアム・ランデイはとにかく面白い小説を書こうとしただけのようにも見受けられます。それだけに、この『ボストン、沈黙の街』がデビュー作というのは次が難しいだろうなあ、と期待と同情を寄せたくなるのだ。

ところでウィリアム・ランデイは六年間検事補をつとめたという経歴のある元法律家だ。近頃では元弁護士という作家など珍しくもないが、なぜそうも作家になるのか、そのヒントが本書にあった。ジョン・ケリーの娘キャロラインも検事補なのだが、彼女の別れた夫についての言葉にそのヒントがある。

「ううん、むこうはとっくの昔に法曹界から足を洗ったわ。時間いくらで請求したって稼ぎはたかが知れてる。だって売れる時間は一日に二十四時間しかないんだもの」

そうか、なるほどね。時給がいくらかによって異なるけれど、上限が決まってきますね。最近コンサルタントを生業にしている人が身近にいるのだが、時給だけ聞くと良さそうに思えるけれど、つらい側面もありわけだ。


書名 ボストン、沈黙の街
作者 ウィリアム・ランデイ
翻訳 東野さやか
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-174201-8

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