今回はスティーヴン・ブースの『黒い犬』です。イギリスのピーク地方(と言ってピンとくる人は少ないと思うけれど、マンチェスターの東側と考えてもらえば良いでしょう)を舞台に、ベン・クーパーとダイアン・フライの男女の刑事コンビの活躍を描くシリーズの一作目である。もっとも、刑事コンビの活躍と書いたが、いかにも英国風の重厚な警察小説で、派手さはない。
実業家の娘ローラ・ヴァーノンが失踪し、警察の捜査にもかかわらず行方は知れなかった。しかし、近くに住む老人ハリーの犬がローラのスニーカーをくわえてきたことから、事件は急展開し、やがてローラの他殺体が発見される。イードゥンデイル警察本部の刑事
ベン・クーパーとダイアン・フライは、死体の腿に残された歯形と乏しい目撃情報を頼りに捜査にあたるが、ハリーは何かを隠しているようで・・・。
事件は大変オーソドックスで、丹念な聞き込みを繰り返し、いろいろな容疑者が浮かんでは消え、やがて収束していく。派手な展開はないが複雑な人間関係をじっくり読ませる。ローラの腿についた歯形について、読者には予想がつくことに警察が気付くのが遅いのはご愛嬌でしょうか? 二人の主人公はともに捜査にあたるものの、部長刑事への昇進を競うライバルでもあり、捜査手法の違いもあって反目もある。また二人とも過去の事件を巡るトラウマや家族に関する悩みを抱えているが、シリーズ一作目の『黒い犬』ではすべてが明らかにされてはいないようだ。二人の関係はなかなか一筋縄でいきそうもないが、ここらはすでに四作目まであるという次回作以降に期待しよう。じっくりとミステリを味わいたいという向きにはお薦めの一作だ。
ところでベンとダイアンの昇進競争は本編ではダイアンが一歩リードした形になっているが、それを感じたベンが言う。
「きみならきっと優秀な部長刑事になれるよ、ダイアン。つねに自制心を失わず、正しい行動をとれる。どんどん偉くなるだろうな。あっという間に出世階段を駆け登っていくよ」力任せに車のドアを閉めた。「ケツにロケットでもつけてるみたいに」
確かに「ケツにロケットでもつけているみたいに」出世する人物はどこにでもいるものだが、そうは感じていてもここは我慢するのが男の子のあり方だと思うのですが、どうでしょう。
| 書名 | 黒い犬 |
| 作者 | スティーヴン・ブース |
| 翻訳 | 宮脇裕子 |
| 出版社 | 東京創元社 |
| ISBNコード | 4-488-25702-X |