スティーヴン・キャネルの『追われる警官』を紹介しましょう。ロサンジェルスを舞台にした警察小説だ。作中に、今知事選に立候補しているシュワルツェネッガーの主演映画撮影の話題がでてくる。タイトルは『銀と鉛』。もっとも、この映画自体は架空の作品のようだ。
ロス市警強盗殺人課の巡査部長シェーン・スカリーは、ある夜旧知の女性バーバラ・モラーから助けを求める電話をうける。そして駆けつけた現場で、荒れ狂う夫レイ・モラーをやむなく射殺する。しかしその夫レイもまた警察官だったことから事態は意外な方向へむかう。本来なら正当防衛として処理されるところなのだが、不当な暴力行使としてシェーンは査問会にかけられることになる。あまりに素早い意思決定には警察上層部も関係していそうだった。自らの潔白を証明するためにシェーンは調査を開始するが、やがて大きな陰謀があることに気付く・・・。
この『追われる警官』やポーラ・L・ウッズの『エンジェル・シティ・ブルース』でもそうだが、ロサンジェルスを舞台とした最近の警察小説ではロドニー・キング事件の後遺症が大きく影響している。厳しく監査され、善良で有能な警察官が苦しめられる。一方で差別的な思想を持つ警官は一層巧妙に暴力をふるう。そんな矛盾を含んでいる姿が描かれている。
「内務部はきみのような連中が市警の上層部への特急券を手にできるように勤勉な警官たちを破滅させるためにある」
と、言うのは現場警官であるシェーンだが、一方彼を訴追することになる内務部の女性法務官アレクサ・ハミルトンはこういう。
「自己検証をしない行政機関は必ず腐敗するものよ」
そんな矛盾をはらみながら『追われる警官』の前半はかなり重苦しい展開なのだが、後半は意外なほどアクションたっぷりだ。ここらはテレビのエミー賞を受賞したこともある作者スティーヴン・キャネルのサービス精神の表れかもしれない。事件だけでなく主人公シェーンと十五歳の非行少年チューチとの微妙な関係も描いて物語に厚みをくわえて、読みごたえのある一作に仕上がっている。その少年のセリフを最後に紹介しておきましょう。
「わたしは今いろいろ厄介なことになっててね」とシェーンは切り出した。
「厄介ごとは生活から出る排気ガスだよ」と一五歳の少年が意外なことを言った。
| 書名 | 追われる警官 |
| 作者 | スティーヴン・キャネル |
| 翻訳 | 真野明裕 |
| 出版社 | 小学館 |
| ISBNコード | 4-09-405431-6 |