皆さんは洞窟ときいてどんなイメージを持ちますか? わたしなどせいぜい石見銀山跡程度しか思い描けないが、そこはそれアメリカとなるとスケールが違う。ニューメキシコ州にあるカールスバッド国立公園内の洞窟群にはサッカー場が14面も入る巨大は地下の部屋などもあり、世界遺産にも指定され一般にも公開されている。さらに1986年になって公園内の地下500mもの深さに巨大なレチュギヤ洞窟が発見された。こちらのレチュギヤ洞窟はまだ一般には公開されていないが、そのレチュギヤ洞窟が舞台となっているのがネヴァダ・バーの『闇へ降りる』だ。パークレンジャーのアンナ・ピジョンを主人公としたシリーズ物で、わたしは手に取るのが初めてなのだが、『闇へ降りる』ですでに六作目となる。
レチュギヤ洞窟の調査隊に加わっていた友人フリーダが洞窟内での落石事故で負傷したとの連絡を受け、アンナ・ピジョンは救助隊の一員に加わり洞窟へ入る。一流の登山技術を持つアンナにとっても洞窟は勝手が違ったが、閉所恐怖症を克服しフリーダの待つ洞窟内へたどり着く。しかし、そこでフリーダは単なる事故ではなく、何者かに襲われたのだとアンナに打ち明ける。疑心暗鬼のアンナだったが、はたして救助の途中で再び大きな落盤事故が発生する。そして地上に戻っても新たな殺人事件が発生し、アンナは否応なく事件に巻き込まれていく。
本書の魅力は洞窟と洞窟探検(ケイビングという)につきる。随所に「へえ」と思う事があって楽しい。例えば、洞窟と言うのは普通の自然界と違ってまったく隔絶した世界なので、外部から持ち込まれた物を浄化することができないようだ。従って、ケイパー(洞窟探検をする人)は自分のふん尿を地上まで持ち帰る、といった新しい知識に満ちている。一方、ミステリの部分はある事に気付いたアンナが再びレチュギヤ洞窟に潜り、事件の真相を突き止めることになるのだが、まあ無難にまとまっていると言えるでしょう。シリーズを通して読んでいる読者にはアンナ・ピジョンという主人公が良く分かっているであろうが、『闇へ降りる』で初めて本シリーズに接する読者にはもう少し丁寧な解説があったほうがいいだろう。
アンナ・ピジョンは人生経験豊富、なかなか複眼的で面白い独白がときどき出てくるが、その中から一つ紹介しましょう。
夫に死なれた妻を訪ねる役は、一度ならず負わされたことがあった。アンナは女でしかも未亡人だから、助けになるだろうと。だれも助けになどなるものか。絶対に。愛していなかった、好きにもなれなかった夫ーー飲んだくれ、女たらし、ぐうたら、退屈な男ーーを亡くした妻でさえ、先立たれたショックに呆然とする。この種の妻は総じて立ちなおりが、ーーあるいは憎むべき次の対象を見つけるのがーーかなり早い。それでも、最初の数日はどんなタイプの未亡人も等しく、未来への不安と過去のつらい断絶にさいなまれる。
思わず自分の結婚生活を考えましたね。
| 書名 | 闇へ降りる |
| 作者 | ネヴァダ・バー |
| 翻訳 | 栗原百代 |
| 出版社 | 小学館 |
| ISBNコード | 4-09-356363-2 |