子供ができない夫婦にとって養子というのは一つの解決策だろう。一方で何らかの理由で子供を手放したいという人もいる。需要と供給があるところビジネスチャンスありで、そこに養子斡旋業が発生する余地が生まれる。そんな養子仲介ビジネスをテーマにしたのが、キャスリーン・ジョージの『誘拐工場』だ。もっとも、実際に二人の子供をかかえていると、そんなにまでして子供が欲しいものかと、疑問にも思うのですがね。
舞台女優をしているマリーナ・ベネディクトは、ある日とても印象に残る母親と赤ん坊に出会う。しかし、その直後に乗ったバスでその赤ん坊を見かけるのだが、赤ん坊を連れているのは怪しげな男だった。不審に思ったマリーナは男を尾行するが、逆に男の一味に囚われてしまう。一方、誘拐事件を知ったリチャード・クリスティー刑事はFBIと協力し非常警戒態勢をとる。そしてある目撃情報から踏み込んだアパートで見つけたのは負傷したマリーナの姿だけだった。クリスティー刑事は唯一の目撃者であるマリーナを警護しながら養子仲介の線で捜査を進めるのだが・・・。
この『誘拐工場』の帯には最近売り出し中のジョージ・P・ペレケーノスの「時限爆弾を思わせるスリリングなプロットが魅力的な、きわめて稀有なスリラーである」なんて賛辞が書いてある。結論を言えば、それを信じたわたしが馬鹿だった。てっきり赤ん坊が国外へ連れ出される設定で、そのタイムリミットにむかって物語が展開すると思ったのだが、肩透かしもいいところだ。マリーナが一味に囚われて負傷するまでの前半はそこそこ面白いのだが、赤ん坊を捜し、一味をつきとめる後半が一向に盛り上がらないまま結末を迎えてしまう。一味の弁護士が糸口になるのだが、その弁護士にたどり着く捜査の過程などもっと描きようがあったと思われる。犯人一味の実行犯三人に対する視点はなかなかユニークで、型破りな味を出しているだけに惜しまれる。
ご多分に漏れず、マリーナとクリスティー刑事の恋も物語に色を添えるかたちになっている。二人とも結婚をしているのだが、それぞれに配偶者との間に問題をかかえている。クリスティー刑事の同僚はこ言う。
「人生は一度きり。この商売じゃ、その一度すらないかもしれない。別れたほうがいい」
| 書名 | 誘拐工場 |
| 作者 | キャスリーン・ジョージ |
| 翻訳 | 高橋恭美子 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-201111-0 |