今日はガブリエル・コーエンの「贖いの地」です。ガブリエル・コーエンは本書でデビューし、2002年度MWA賞最優秀処女長編賞にノミネートされています(つまり、受賞はしていない)。原題は"RED HOOK"、ブルックリンの北西部の波止場地区の地名だ。この地で生まれ育ったジャック・ライトナー、ブルックリン・サウス署殺人課刑事が主人公だ。
ブルックリンの運河でヒスパニックの青年の刺殺体が発見される。捜査にあたるジャック・ライトナーは被害者の身辺を洗い、やがて被害者が働いていた高級アパートの住人に目星をつける。しかし、その人物からの警察上層部への苦情により、ジャックの捜査へも圧力がかかってくるのだが・・・。
事件そのものはこんな感じで何の変哲もない。しかし、ジャック・ライトナーは現場で刺殺体を見て嘔吐をしてしまう。鼻血で気絶する外科医並みのお粗末さと思いながらもどうしようもなかったのだ。その背景、今の流行り言葉でいえばトラウマの原因が本書のもう一つの謎となっている。ジャックの弟ピーターに関することだと薄々分かるのだが、本書の最後でそれも明かされる仕掛けになっている。
駆け出しの映像作家である息子のベンとの交流、移り変わるレッド・フック地区への複雑な感情、そんなものを丁寧に描いてはいるが、文章もすっと頭に入ってこないし、読み通すには結構根気がいる。本書の帯には「NY産の癒しのミステリー」とある。確かに、最後の結末は薄明かりが見えたような印象があるものの、はたしてこれが癒しになるのかは相当に疑問だ。
ところで、ジャックにこの事件を追うのを諦めるように圧力をかける上司の部長刑事とのやりとりを紹介しておきましょう。
部長刑事は椅子に深くすわりなおすと、ジャックと見つめながら、しばらく左右に体をゆらした。「最善の判断力を働かせてくれ、と頼んでいるだけだ」
ジャックはボスをにらみつけた。「わたしはそれで給料をもらってるんです」
| 書名 | 贖いの地 |
| 作者 | ガブリエル・コーエン |
| 翻訳 | 北澤和彦 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-200211-1 |