ビーチハウス


ジェイムス・パタースンの「ビーチハウス」はソニー・マガジン社のヴィレッジブックス・シリーズの最新作だ。この文庫シリーズはミステリが専門ではないが、時々おもしろい海外ミステリが登場する。本書もなかなかの掘り出し物だ。読みやすい文章と、展開の早いストーリーで読者を引っ張っていく。なお、著者のジェイムズ・パタースンはミステリからノンフィクションまで幅広く活躍している人らしいが、日本ではモーガン・フリーマンの主演映画「コレクター」の原作「キス・ザ・ガール」の作者、と言ったほうが通りがいいだろう。

コロンビア大学のロースクールの学生であるジャック・マレンは休みを利用して、故郷ロングアイランドに帰ってくる。しかし、そこで見たのは海辺に打ち上がられた弟ピーターの傷だらけの遺体だった。その日、弟ピーターは地元の大富豪ニューバウア家のパーティーの手伝いをしていたのだが、関係者は一様に口を閉ざし、警察までもが自殺として処理をしてしまう。ジャックとその友人たちは真相を突き止めようと行動を開始するが、彼らにも暴力と札束による圧力がかかってくる。ピーターが殺されたことを確信したジャックは思いきった手段によって復讐を企てるのだが・・・。

その解決手段が奇想天外だ。その着想が本書の全てといってよいが、内容は本書を読んでのお楽しみとしておきましょう。O・J・シンプソンの裁判に代表されるように現在のアメリカの裁判制度に対するある種の不信感が根底にある、とだけヒントを述べておきます。

また、主人公ジャックの祖父にあたる87歳のマクリン・マレンのかくしゃくとし、かつ飄々としたスタイルが魅力的だ。その意味ではシリーズ化してもよさそうな内容だ。ちなみにジェイムズ・パタースンの最新作は、この6月に米国で発売されているが、「ザ・レイク・ハウス」というタイトルで、ひょっとして本書の続編かと期待したが、まったくの別の物語のようで残念です。

ところで、この物語に登場する大富豪というのは、主催するパーティーにヨーヨー・マを呼ぶような半端ではない富豪ぶりなのだ。そのパーティーの駐車係としてもぐり込むことを計画したジャックと友人フェントンの会話を紹介しておこう。

わたしは金持ちに対するおべっかの使い方について、フェントンに簡単なコーチをしていた。自分が生まれながら才能があることを認めるのが恥ずかしい分野だ。重要なのは、彼らがあけようとするドアをいかに早くあけるかでも、いかにへりくだった態度をとるかでもないのだ、と説明した。一般にスーパーリッチは過度のサービス精神も、持ち上げられることも求めていない。そういうものは、彼らにとっては煩わしい。「連中はおまえが喜ぶところを見たいんだよ」わたしはフェントンに言った。「おまえがちょっと金持ちの世界に触れることで舞い上げるところを見たいんだよ」

書名 ビーチハウス
作者 ジェイムズ・パタースン
翻訳 大西央士
出版社 ソニー・マガジンズ
ISBNコード 4-7897-2031-4