忘却の罪


テイラー・スミスの「忘却の罪」(ハーレクイーン社MIRA文庫)は今どき少しレトロな印象を与えるミステリーだ。前作「沈黙の罪」に続き、主人公マライアはCIAの情報分析官だが、その本業を離れて事件に巻き込まれる。

マライアは上司から特別な任務を与えられる。訪米中のロシア外務大臣ザカロフの一行に近づき、ザカロフの側近ベレンコをスパイとして勧誘しろというものだ。一方、著名な作家であったマライアの父ベン・ボルトの遺稿を取り扱っていた出版代理人とその遺稿の存在に疑問を持った大学教授が不審な死をとげる。やがてそれは元KGBのザカロフの過去の秘密工作に関係したものであることが浮かび上がってくるが、敵の魔手はマライアと娘リンジーにも伸びてきた・・・。

簡単にストーリーを紹介できないほど登場人物や事情が複雑に絡み合っている。マライアの元上司のフランク・タッカー、父ベン・ボルトが母やマライアを捨てた原因となった富豪の娘レナータの存在など多彩だ。しかも、各々の登場人物の細かな背景もおろそかにせずに書きこまれている点に感心するが、反面少し冗長な印象も残る。ただ、いかんせんKGBとその過去の工作が問題という設定は現代においては説得力に欠ける。無論、表向きの政治体制とは別に、KGBやCIAといった諜報機関の活動は不変だという言い方も出来るのだけれど・・・。まぁ、可もなく不可もなく、といった作品だ。

さて、今回紹介するのは厳密にはセリフではないが、さすがに女性作家だけあってなかなか深遠な男女関係に関する言葉だ。勉強になりますね。

愛してもいない男と寝るのはそれほどむずかしくない。夜の寂しさは数々の疑いを覆い隠し、必要は解決を抑えこむものだ。だが、愛してもいない男のかたわらで目覚めるとなると、話が違う。朝の冷たい光には、いささかの容赦もない。

書名 忘却の罪
作者 テイラー・スミス
翻訳 安野玲
出版社 ハーレクイーン社
ISBNコード 4-596-91064-2