ブラックウォーター


T・ジェファーソン・パーカーは「サイレント・ジョー」が昨年、多くのミステリ・ベストテンで軒並み上位にランクされ、一躍名を馳せた格好だ。わたしの評価でも文句なく、昨年のベストワンだった。そんな作家を出版社が放っておくはずもなく、さっそく新作「ブラックウォーター」が翻訳された。実はこの作品。シリーズ物の三作目で、主人公はカリフォルニア州オレンジ郡保安官事務所殺人課の女性巡査部長マーシ・レイボーンだ。

その惨劇は保安官補アーチー・ワイルドクラフトの自宅で起きた。妻のグウェンが浴室で射殺され、アーチー自身も頭に銃弾を受け重体で発見された。しかし現場の状況は、アーチーがグウェンを殺害した後、自殺を図ったことを示唆していた。捜査にあたるマーシは事件の状況に不審を抱くが、回復したアーチーが病院を抜け出してしまう・・・。

前作の魅力はなんと言っても主人公ジョーの人物造形にあった。無論、事件を通して浮かび上がる育ての父の暗い過去といった要素もあるが、事件そのものは単純だ。それを補って余りある魅力がジョー・トロナのキャラクターにあった。さて、本編の主人公マーシ・レイボーンだが、私が男ということもあるだろうが、正直に言えば物足りない。「サイレント・ジョー」を基準に考えると、肩透かしを喰らうことになる。そもそも前二作で彼女の保安官事務所での立場を難しくする、ある出来事があったのだが、そこらから読んでないとなかなか感情移入が難しいかもしれない。その出来事について本編でもそれとなく判ることは判るのだが、最初から最後まで魚の小骨が喉に刺さったようで、気分が悪い。

さて、事件にはアーチーとグウェンの夫婦があるベンチャー企業の株で大金を手にしていたことが関係していたのだが、そのことについてマーシと父のクラークの会話を紹介しておこう。

「そういう金にはトラブルがつきものなんだ」
「両親の話では、すべて合法的なお金なんだって。疚しいところはまったくないそうよ」
「としてもだ、わずか数カ月で、ちょっとした金をもとに財産を築いてしまったんだ。あちこちに波紋を及ぼすはずだ。化学反応みたいなもんさ」


書名 ブラックウォーター
作者 T・ジェファーソン・パーカー
翻訳 横山啓明
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-208474-X