冷笑


女性検事補アレックス・クーパーを主人公にしたシリーズ三作目、リンダ・フェアスタインの「冷笑」だ。と言っても、実はこのシリーズを読むのは初めて。だたし、レギュラーメンバーやその経歴など手際よく紹介されているので、すんなりと入り込める。ちなみに、原題"Cold Hit"はDNAによる身元確認の意味だが、物語の鍵になっているわけではない。

ハドソン川の下流で一人の女性の遺体があがる。被害者が暴行されていたことから性犯罪課のアレックス・クーパーの出番となった。最初は単純な婦女暴行殺人事件と思われたが、被害者が著名な画廊経営者の妻であったことから事件は広がりを見せはじめる。画廊に勤めていた前科のある人物が轢死体で発見され、絵画修復師の急死と事故が相次ぐ。過去に盗難にあった高額な美術品の売買をめぐる事件であることをつきとめたアレックスだが、犯人は捜査を妨害するためアレックスに罠をかけ、銃口を向ける・・・。

最初の事件の発生から、背後に美術品の売買をめぐるトラブルがあることが判り、アレックスが犯人に狙われるまでは、読者の興味をひきながら謎が深まる実に巧みな展開だ。それだけに後半、犯人を追いつめていく過程がもたつくのが残念だ。なんだが良く判らないうちにバタバタとクライマックスを迎える。

ところで、主人公アレックスは別荘を持つほど裕福だし、捜査に協力するマイク・チャップマン刑事が博識であったり、一般の警察小説とは異なるイメージをもっている。またレンブラントの「夜警」が実は昼間を描いたものであるという話(まぁ、これはあまりに有名ですが)や、ヨーロッパの美術館でみんなが見ている美術品の80パーセントは、何世紀もの間に、盗まれたり、略奪されたりしたものだという話など、美術品をめぐるいろいろな逸話が興味を引く。ここらの雰囲気がこのシリーズの持ち味でしょう。

今回はアレックスが上司の地方検事バターリャに事件の報告をするシーンのセリフを紹介しておこう。

「画商殺しの件で、何か進展はあったのか?」
「展開はあったけど、進展はありません」

これなんか、一向に仕事が進まないときの言い訳に使えそうだが、こんな口をきいて、次の人事異動の対象になってもしりませんよ。


書名 冷笑
作者 リンダ・フェアスタイン
翻訳 平井イサク
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-173353-1