餌食


ジョン・サンドフォードのこのシリーズは前作まで早川書房の出版だったが、本書は講談社の発売だ。原題には必ず"PREY"という単語がつき、早川時代は前作「一瞬の死角」を除けば「○○の獲物」というシリーズ名だった。主人公も早川書房時代はルーカス・ダヴンポートだったが、本編からダベンポートと表記されるようになった。綴りはDavenportだから、女子プロテニスの選手と同じ。日本人的にはダベンポートのほうがなじみやすいでしょうか。

一流の刑事弁護士として名前のとおった女性弁護士カーメル・ローンは、ある男性に恋したことからその妻の殺害を計画する。そして、かつて弁護したことのある麻薬の売人の仲介で凄腕の女殺し屋リンカーを雇う。いくつかの共通点のある二人の女性は意気投合し、目的を達成する。しかし、予想外のことが二人をおそう。仲介の売人のゆすり、そしてミネアポリス市警、ルーカス・ダベンポートの存在だ。犯行を隠すために新たな殺人をおかす二人、そして直感的にローンに疑いを抱いたダベンポートはおもいきった罠をしかけるのだが・・・。

もともと、あまりハズレがないシリーズだが、さすがにシリーズ10作目となるだけに手慣れたもので、するどい勘と、違法行為すれすれの捜査でダベンポートが犯人たちにせまる姿は読みごたえがある。特にわずかな手掛かりから、FBIも追う謎の女殺し屋の正体へ肉薄する展開は巧みだ。
本編は犯行を重ねる二人の女性の側からも描かれている点が特徴だが、弁護士より、殺し屋のほうが高い倫理観(殺し屋相手に言うのもおかしいが)を持っているように描かれているのも興味深い。ただ、読み終わって冷静に考えれば、この事件では犯人が動き過ぎて墓穴を掘ったといった感が強いなぁ。

ところで、事件の真相を追うルーカスが同僚の女性刑事と「偶然の一致」ということについて語るシーンがある。

「偶然の一致かもしれない」ルーカスは言ったものの、自分からすぐに認めた。「驚くべき偶然の一致ってことになるが」
「偶然の一致の定義は知ってるはずでしょ」
「ああ。”他の可能性が考えなれない場合は、偶然の一致の可能性がある”」

そして「偶然の一致」など信じないルーカスの嗅覚が犯人を追いつめていく。

前作を読んだのが三年前ということもあって、ダベンポートが副本部長という似つかわしくない地位にいる経緯とか、以前女医さんとつきあっていた時期があったのだが、どうしたのかとか、気になる点がいくつかあるが、どうやら間に翻訳されていない作品が一つあるようだ。米国では13作目まで出版されているが、日本での評価はイマイチなのかな。わたしは結構気に入っているシリーズなのだが。


書名 餌食
作者 ジョン・サンドフォード
翻訳 北沢あかね
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273660-8