狼の震える夜


こういうのは好きだなぁ。そう、ウィリアム・K・クルーガーの「狼の震える夜」の話です。エリオット・パティスンが書くミステリ・シリーズでチベットの人々の敬虔な信仰の姿が心を打つように、クルーガーの元保安官コーク・オコナーを主人公としたミステリでは自然と共生するインディアンの人々の姿が心にしみ入る。物語の舞台はミネソタ州オーロラの街、前作「凍りつく心臓」の9ヶ月後のことだ。

元保安官で、いまは観光客相手のハンバーガー・ショップを営むコーク・オコナーのもとへ、レコード会社のオーナー、ウィリー・レイが訪ねてくる。レイの娘で行方不明になった人気女性歌手のシャイローを捜すのを手助けしてくれと言うのだ。シャイローは幼い頃に母親が殺害されるのを目撃したものの、ショックのためその記憶をなくしていた。ところが、最近になってその記憶を取り戻し、自然保護区バウンダリー・ウォーターズに身を潜めたと思われていた。殺人事件の真相をおうFBIも乗り出し、シャイローの潜伏場所を知っているインディアンの少年も伴って、コークはバンダリー・ウォーターズに分け入ることになる。しかし、彼らのほかにもシャイローを追う謎の一団がいた。そして、初冬の厳しい自然のなかでサバイバル・ゲームが始まった。

冒頭でも述べたように厳しい自然の中でいきるインディアンの人々(コーク自身もインディアンの血が入っている)の生活や教えが胸に響く。とくにインディアンの少年のルイスが語る森の精霊にまつわる逸話がいい。主人公コークも、前作では冷えきっていた妻との関係が改善に向かいつつあり、次回作では一層の進展がありそうだ。

また、このシリーズの魅力に加えて、本編は冒険小説のツボを押さえた展開となっている。シャイローを捜して旅に出る仲間の存在、それを阻む敵の出現、そして仲間の死、それを乗り越えて敵の親玉と対決し、目的を達成する。こんな具合で「ロード・オブ・ザ・リング」などにも共通する展開で読者をあきさせない。また、シャイローを狙う一団にも意外な真相が用意されており、サスペンスとしても第一作より格段に面白い。

シャイローにバウンダリー・ウォーターズでの隠れ家を提供し、森の中での生活を教えるインディアン、ウェンデル・ツー・ナイヴズがシャイローに、彼女の母親の思いでを聞かせた後にいう言葉。

「われわれは死なない。子どもたちに伝えていくものを通して、生きつづける。おまえの中には、お母さんの多くが生きている」


書名 狼の震える夜
作者 ウィリアム・K・クルーガー
翻訳 野口百合子
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273641-1