弁護人


「状況証拠」、「重要証人」、「依頼なき弁護」、「裁かれる判事」と続いていたスティーヴ・マルティニの弁護士ポール・マドリアニを主人公とするシリーズに久しぶりに新作「弁護人」が出された。随分と間があいてしまったために細かな設定を忘れているという難はあるものの、さすがにリーガル・サスペンス界を代表する著者だけあって、ソツなくまとまった作品となっている。

晩年のヘミングウェイに似ているヨナ・ヘイルは宝くじで大金を当てた老人だった。そのヨナがマドリアニを訪ねてくる。孫娘アマンダが誘拐されたと言う。誘拐したのは娘のジェシカだが、その背後に過激な女性活動家ゾランダ・スウェイドがいるという。ジェシカとアマンダの行方を探るためにマドリアニはスウェイドに近づくが、その直後に何者かによってスウェイドが殺害される。そしてヨナがその容疑者として逮捕される。マドリアニはヨナの裁判を引受けるとともに、アマンダの行方を捜すのだったが・・・。

こなれた文章で、すらすらと頭に入ってくる。最近、難しい本が多かっただけにこれだけでもありがたい。事件が解決したと思われたあとに、意外な真相が明かされるのもこのシリーズのいつものパターンだ。種明かしをされると、なるほどそんな手もあったか、とは思うものの、多少強引な感じも残る。マドリアニの法廷外での活躍で事件は解決する。だが法廷では検察側に押され気味で、検事をギャフンといわせるシーンがないのがちょっと物足りない。さすがに水準以上ではあるけれど、マルティニの過去の作品と比べると並の出来といっていいだろう。

普通、この種のストーリーで被告人は弁護士にも隠している秘密があるものだが、本編のヨナ・ヘイルは好人物として描かれている。

「本人の話を信じれば、わたしの依頼人は事件と無関係だ。だが、こうしている間にも、警察は依頼人の車のカーペットを顕微鏡で調べている」
「それでも自分は無関係だと言い張るとは、依頼人も楽天家ですな」
「そう、穴を見たら、ドーナツだと思うタイプだ」

穴を見て、ドーナツだと思うとは面白い表現だ。穴を見てなにを思うかは人それぞれかも知れませんが。そうそう、本書の解説は評論家の池上冬樹さんだが、リーガル・サスペンスの分類や作家の格付けなどもあって、こちらも必見です。


書名 弁護人
作者 スティーヴ・マルティニ
翻訳 斉藤伯好
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273603-9
4-06-273604-7