サイレント・ジョー


2002年のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長編賞を受賞した「サイレント・ジョー」です。著者はT・ジェファーソン・パーカー。実はあまりよく知らない作家なのだが、本書の解説によるとデビュー作が「ラグナ・ヒート」ということだ。随分とまえの作品で、内容はまったくもって忘れてしまったが、タイトルだけは記憶に残っている。きっと印象の強かった本なのだろう。本書「サイレント・ジョー」はさすがに受賞作品だけあって、味わい深い秀作だ。

保安官補として刑務所の看守を勤めるジョー・トロナは、郡政委員をつとめる養父ウィルの仕事も手伝っていた。しかし、ある日目の前で何者かにウィルが射殺されるという事件が起こる。ジョーは幼い頃、実の父親に硫酸をかけられ顔面に大火傷を負い、施設にいれられていたところを、ウィルに引き取られた。ウィル夫妻はジョーに慈愛をそそぎ、立派に育ててくれた。その養父を殺した犯人を捜すジョーだったが、やがて知られざる養父ウィルの一面と、自らの出生の秘密に向き合うことになるのだった・・・。

ウィルを殺した犯人は早い段階でわかり、その背景や証拠集めにジョーが協力するという構成になっており、犯人探しが本書の中心ではない。本書の魅力は、なんと言っても主人公ジョー・トロナのキャラクターにつきる。養父母への深い敬愛の念と実の父母に対する複雑な心境。24歳の駆け出しの保安官補でありながら、捜査でみせる明敏な頭脳。内省的でストイックな性格。すべてが魅力的だ。読みながらディック・フランシスの競馬シリーズに登場する主人公を思い出していた。フランシスのファンならば、きっと本書も気に入るにちがいない。

養父ウィルの薫陶をうえたジョーは、ウィルから教えられたことを心の中で繰り返し思い出す。

「ジョー、これから会うメディナの様子に変わったところはないか、よく注意をして見ておいてくれ。口は閉ざし、眼は開けておけ。そこから何か得るものがあるかもしれない」
<口は閉ざし、眼は開けておけ。そこから何か得るものがあるかもしれない>
ウィルが最初に教えてくれたことの一つだ。


書名 サイレント・ジョー
作者 T・ジェファーソン・パーカー
翻訳 七搦理美子
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-208447-2