唇を閉ざせ


マイロン・ボライター・シリーズでお馴染みのハーラン・コーベンが書いた初めてのノン・シリーズ物「唇を閉ざせ」である。ボライター・シリーズとは趣が異なるが、面白い事はうけおいましょう。

ニューヨークで小児科医として働くデビッド・ベックは、妻エリザベスと訪れた湖畔で連続殺人鬼キルロイに襲われ、彼はかろうじて一命を取り留めるが、妻は無惨な死体となって発見された。その後犯人キルロイは逮捕されるが、ベックには忌わしい記憶として残っていた。その事件からちょうど8年目をむかえるある日、ベックは不可解なメールを受け取る。そこには妻のエリザベスしか知らないはずの秘密が書かれていた。しかし、時を同じくしてFBIが妻の殺害容疑でベックの再捜査をはじめた。一方、ベックを盗聴し、監視をする謎の男たち。やがて新たに起こった殺人事件の犯人としてベックは追われることになるのだが・・・。

ボタイター・シリーズは好きなシリーズだが、その魅力は主人公ボライターやその脇役たちのキャラクターにあって、発生する事件の展開で読ませているわけではない。ところがこの「唇を閉ざせ」では一転して巧みなストーリー展開で読ませる。新境地といっても良いだろう。あまり細かくその巧妙さを紹介するのはこれから読もうという読者の邪魔をすることになるので避けるが、”ノンストップ・サスペンス”といった表現は嘘ではない。

ただこの種のミステリにありがちな事ではあるが、読んでいる最中は興味津々で、どんな展開になるかと面白いのだが、読み終わった後に何も残らないなぁ。純粋にエンターテイメントと割りきるべきなのだろう。そうであれば、いっそのこと最後のクライマックスはもっと破天荒に盛り上げても良かったろう。

ただ、キャラクター造形はたくみはハーラン・コーベンらしく、ベックをとりまく脇役たちにもユニークな設定が多い。彼を助ける麻薬密売人タイリーズとともにベックは、8年前の事件に関係のあった弁護士フラナリーを訪ね、真相を聞き出そうとするが・・・。

「ひとついっていいか」フラナリーはタイリーズにいった。「下手なこけおどしはやめろ。こっちはいかれたサイコ野郎を何人も弁護してきたんだ。そいつとくらべたら、おまえなんかメリー・ポピンズみたいにかわいいもんだ」

ところでマイロン・ボライター・シリーズは早川書房からの出版だったが、この「唇を閉ざせ」は講談社からの出版だ。版権をめぐって値が高騰したかどうかは知らないが、本の厚さにしては高い。乱暴な尺度だが、1ページあたり3.4円になる。これから読もうと思っているジェフリー・ディーヴァーの「青い虚空」(文春文庫)は1ページあたり1.3円に過ぎない。この違いはどこからくるのでしょうね?


書名 唇を閉ざせ
作者 ハーラン・コーベン
翻訳 佐藤耕士
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273564-4
4-06-273565-2